「うちの子、最近元気がない…」「学校で何かあったのかな…」
お子さんの様子がいつもと違うと、親としては心配ですよね。もしかしたら、学校での人間関係や勉強のことで悩んでいるのかもしれません。
そんな時、家庭が「心理的安全性」の高い場所であれば、子どもは安心して悩みを打ち明け、心の安定を取り戻せるかもしれません。
「心理的安全性」って最近よく聞くけど、具体的にどういうこと?
不登校にも関係あるの?
「心理的安全性」は不登校の原因にもなり得ます。しかし、それ以上に大事なことは不登校になってからの対応について、家庭内の「心理的安全性」の高さが大きく影響します。
この記事では、スクールカウンセラーとして20年以上子どもたちの心に寄り添ってきた専門家の知見を交えながら、心理的安全性の重要性と家庭で実践できる具体的な方法をわかりやすく解説します。
心理的安全性とは安心できる状態のこと
心理的安全性とは、「安心して自分の考えや気持ちを表現できる環境や状態」のことを指します。
例えば、以下のような状況であれば、それは「心理的安全性が高い状態」といえます。
- 失敗を恐れずに、新しいことに挑戦できる
- 自分の意見を素直に言える
- 悩みや不安を打ち明けられる
- 弱みを見せても受け入れてもらえる
心理的安全性が確保された環境では、子どもはありのままの自分でいることができ、自己肯定感が高まります。
反対に、心理的安全性が低い環境では、子どもは萎縮し、自分の気持ちを抑え込んでしまうため、自己肯定感が低くなってしまう可能性があります。
「心理的安全性」と「ぬるま湯」は違う?
うちの子にも、自分の意見を素直に言えたり、弱みを見せられるように接している。でも、ただ子供に好き勝手にやらせているだけの、甘やかしのようにも思えてします。
「心理的安全性が高いと、子どもが甘やかされてしまうのでは?」と心配する方もいるかもしれません。
居心地が良くてぬるま湯から出ようとすると寒いので、いつまでも変化や向上心のない状態を「ぬるま湯」に例えることがあります。
しかし、心理的安全性と「ぬるま湯」は全く違います。
<心理的安全性の高い状態とぬるま湯状態の比較表>
心理的安全性が確保された家庭では、子どもは安心して挑戦し、失敗から学ぶことができます。一方、ぬるま湯状態の家庭では、子どもは失敗を恐れ、挑戦することを避けてしまいます。
心理的安全性が低い家庭環境の特徴
心理的安全性が低い家庭環境には、以下のような特徴が見られます。
1.過干渉・過保護
子どもの行動を常に監視し、細かく指示したり、子どもの代わりに問題を解決したりするなど、過度な干渉は子どもの自主性を奪い、自己肯定感を低下させます。
- 友達とのトラブルに親が介入しすぎる
- 忘れ物を届けたり、宿題を手伝いすぎる
- 服装や髪型にまで細かく口出しする
このような行動は、子どもが自分で考える力を養う機会を奪い、依存心を強めてしまう可能性があります。
▶ 【過干渉】不登校の子どもに口出しをしすぎる問題点と改善方法
2.無関心・放任主義
子どものことに関心を示さず、放置したり、話を聞かなかったり、ルールを守らせなかったりすることは、子どもに孤独感や不安感を与え、自己肯定感を低下させます。
- 仕事や趣味に忙しく、子どもとの時間をほとんど取らない
- 子どもの話を上の空で聞く
- 夜遅くまでゲームやスマホをしても注意しない
このような親の態度は、子どもに「自分は愛されていない」「どうでもいい存在だ」と感じさせてしまうかもしれません。
3.条件付きの愛情
「良い成績を取ったら褒める」「言うことを聞かないと怒る」など、条件付きの愛情は、子どもの心を不安定にさせ、自己肯定感を低下させます。
- テストの点数で態度を変える
- 言うことを聞かないと無視する
- 兄弟姉妹と比較して、特定の子どもだけを可愛がる
このような態度は、子どもに「自分は無条件に愛されているわけではない」と感じさせ、不安や自信のなさにつながります。
4.感情的な叱責・非難
怒鳴ったり、人格を否定するような言葉を浴びせたりすることは、子どもの心を深く傷つけ、自己肯定感を著しく低下させます。
- 「なんでこんなこともできないの!」と怒鳴る
- 「あなたはダメな子だ」と人格を否定する
- 過去の失敗を蒸し返し、いつまでも責め続ける
このような言葉は、子どもに恐怖心を与え、親子の信頼関係を壊してしまう可能性があります。
5.過度な期待
子どもの能力や興味関心を無視して、高い目標を押し付けることは、子どもに大きなプレッシャーを与え、自己肯定感を低下させます。
- 「あなたは〇〇大学に行くべきだ」と決めつける
- 習い事や塾に過剰に通わせる
- 常に完璧を求め、小さな失敗も許さない
このような態度は、子どもを追い詰め、疲れさせて、新しいことに挑戦する意欲を失わせる可能性があります。また、最近話題になっている教育虐待にもつながるので、気をつけましょう。
6.家庭環境が落ち着かない
夫婦喧嘩が多い、家庭内暴力があるなど、家庭環境が不安定な場合も、子どもの心理的安全性を脅かします。
心理的安全性の高い家庭環境が子どもに与える影響
心理的安全性の高い家庭環境で育った子どもは、様々な良い影響を受けます。
自己肯定感の向上
親から無条件に愛され、受け入れられていると感じられることで、子どもは「自分は大切な存在だ」と実感し、自己肯定感が高まります。
自己肯定感の高い子どもは、
- 自分に自信を持つことができる
- 困難な状況にも立ち向かうことができる
- 失敗しても、そこから学ぶことができる
など、様々なメリットがあります。
自立心の育成
自分の意見や気持ちを尊重してもらう経験を通して、子どもは「自分は自分でいいんだ」という感覚を持ち、自立心が育ちます。
自立心の高い子どもは、
- 自分の力で問題を解決しようとする
- 他人の意見に左右されず、自分の考えで行動できる
- 将来の目標に向かって努力できる
など、社会で生きていく上で必要な力を身につけることができます。
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▶ 子どもの自己肯定感を高めるための親のアプローチ
コミュニケーション能力の発達
親との良好なコミュニケーションを通して、子どもは自分の考えや気持ちを適切に表現する力を身につけます。
コミュニケーション能力の高い子どもは、
- 友達と良好な関係を築くことができる
- 先生や大人と円滑にコミュニケーションをとることができる
- 自分の意見を相手に伝え、相手の意見を聞くことができる
など、人間関係を円滑に進める上で重要なスキルを習得できます。
ストレスへの抵抗力がつく
安心して悩みや不安を打ち明けられる環境があることで、子どもはストレスを溜め込まずに済みます。
また、親から共感や励ましを受けることで、ストレスを乗り越える力を身につけることができます。
ストレスへの抵抗力が高い子どもは、
- 困難な状況にも冷静に対処できる
- 挫折しても立ち直りが早い
- 心身の健康を維持できる
など、様々なメリットがあります。
不登校の予防・改善効果
心理的安全性の高い家庭環境は、不登校の予防や改善にも効果があるとされています。
実際に、不登校を経験した子どもたちが、家庭で安心して過ごせるようになり、学校復帰への意欲を取り戻したという事例は数多く報告されています。
家庭で心理的安全性を高める具体的な方法
ここからは、家庭で心理的安全性を高めるための具体的な方法を6つ紹介します。
1. 子どもの話をじっくり聞く
子どもが話しかけてきたら、家事の手を止めて、子どもの目を見て話を聞くようにしましょう。
「忙しいから後でね」などと後回しにせず、できる限り、子どもの話を優先することが大切です。
- 否定・批判を避ける: 「そんなことないでしょ」「それは違うよ」など、否定的な言葉は避け、まずは子どもの言葉に耳を傾けましょう。
- 共感する: 「つらかったね」「それは嫌だったね」など、子どもの気持ちに寄り添う言葉を伝えましょう。
- 質問する: 「もっと詳しく教えてくれる?」「他に何かあった?」など、子どもが話しやすいように質問を投げかけましょう。
全部を意識するのは難しいでしょう。基本的には、子どもの話の腰を折らないで、話やすいように合いの手を入れることを心掛けましょう。そうすれば、否定や批判にならず、共感が伝わり、程よい質問ができます。
2. 意見を尊重する
子どもにも自分なりの考えや感じ方があります。頭ごなしに否定せず、まずは子どもの意見を尊重しましょう。
- 考えを押し付けない: 「こうすべき」「こうしなさい」ではなく、「どうしたい?」「どう思う?」と聞いてみましょう。
- 自分で決めさせる: 服装や遊び方など、可能な範囲で子どもに選択権を与えましょう。
- 失敗を許容する: 失敗は誰にでもあるものです。失敗から学ぶことを大切にし、責めないようにしましょう。
さまざまな経験をしてきた大人にとっては「そんなこと無理」「できないに決まっている」などと思うことも、子どもにとっては「やってみたい」場合があります。逆に「これはやるべき」「簡単にできるはずなのに」と思うことが、子どもにとっては「やりたくない」「できない」「こわい」と思っている場合もあります。
ある程度子どもなりの試行錯誤を認めてあげることで、子どもにとって「やっぱり親のいうことは正しいんだ」と感じて信頼関係が深まることがあります。
安心できる雰囲気を作る
家庭が安心できる場所であると感じるためには、雰囲気作りが大切です。
- 穏やかな口調で話す: いつも優しい口調で話しかけ、安心感を与えましょう。
- 笑顔で接する: 笑顔は安心感と信頼感を育みます。
- スキンシップを大切にする: ハグや頭を撫でるなど、スキンシップを通して愛情を伝えましょう(年齢などによっては、スキンシップを避けた方が良い場合もある)。
保護者さん自身が、子どもの頃を振り返って、「こんな風に聞いてほしかった」「あんなふうに聞かれるのが嫌だった」などを参考にしてみるのが一番わかりやすいと思います。
一緒に過ごす時間を作る
親子で一緒に過ごす時間は、信頼関係を築く上で欠かせません。
- 食事: 毎日一緒に食事をする時間を作り、今日あったことや感じたことを共有しましょう。
- 遊び: ゲームやスポーツなど、一緒に楽しめる遊びを見つけましょう。
- 会話: 寝る前など、リラックスできる時間にゆっくり話を聞いてあげましょう。
親子の過ごし方のヒントは、以下の記事を参考にしてください。
▶ 不登校の子どもとの過ごし方(平日の昼間)
▶ 不登校の子どもとの休日の過ごし方
▶ 不登校の子どもとの過ごし方(夏休み)
▶ 不登校の子どもとの過ごし方(小学生編)
▶ 不登校の子どもとの過ごし方(中学生編)
▶ 不登校の子どもとの過ごし方(高校生編)
子どもの自己肯定感を高める声の掛け方
褒めることは、子どもの自己肯定感を高める上で非常に効果的です。
褒めることは、「何が適切かの答え合わせをすること」だと考えます。「ここが良かったよ」「こうしてくれるとすごくありがたいよ」などと何が適切だったかを具体的に伝えましょう。
- 結果ではなく、努力やプロセスを褒める: テストの点数だけでなく、「一生懸命勉強したね」と努力を認めましょう。
- 具体的に褒める: 「えらいね」だけでなく、「〇〇ができたね」と具体的に褒めることで、子どもは自分の成長を実感できます。
- 感謝の気持ちを伝える: 「手伝ってくれてありがとう」「一緒にいてくれて嬉しい」など、感謝の気持ちを伝えることで、子どもは自分の存在価値を感じることができます。
部活の試合や受験など、どんなに頑張っても負けることがあります。勝つか負けるかは相手の状況やその時の様子によって違います。しかし、「一生懸命取り組むこと」は誰でもいつでもできます。
そのため、「一生懸命取り組むこと」を褒める方が、確実にできるのでおすすめです。
子どもを注意・叱る際のポイント
叱り方ひとつで、子どもの心理的安全性は大きく変わります。
基本的には、「できるだけ叱らない」ことを心掛けましょう。叱らなければいけない状況を作らない。叱る場合は、叱らざるを得ないポイントだけに絞って伝えましょう。ここぞとばかりに日ごろからの苦言を伝えると、子どもは聞きません。
- 感情的に叱らない: カッとなっても、まずは深呼吸をして落ち着きましょう。冷静に、なぜ叱るのかを伝えましょう。
- 人格を否定しない: 「あなたはダメな子だ」といった人格否定の言葉は避けましょう。
- 改善策を一緒に考える: 叱るだけでなく、どうすれば改善できるのかを子どもと一緒に考えましょう。
保護者がお子さんを叱るのは、「不適切なことを止めさせたい」あるいは「適切な行動をしてほしい」からではないでしょうか。
それらの目的を達成するために叱ることが重要なので、「子どもに伝わってこそ、叱る意味がある」のです。ただ「言いたいことを言う」「ムカついたから懲らしめる」という行為は、子どもにプラスになるどころか、虐待にもつながる危険性があるので、充分に気をつけましょう。
思春期の子どもとの関わり方
思春期は、自我の芽生えとともに、親子の距離感が難しい時期です。子どもの自立を尊重しつつ、適切な距離感を保つことが大切です。
- 過干渉にならない: 子どものプライバシーを尊重し、干渉しすぎないようにしましょう。
- 対話を大切にする: 何か問題が起きたときは、一方的に叱るのではなく、まずは子どもの言い分を聞き、対話を通して解決策を探りましょう。
- 変化を受け入れる: 体つきや考え方が変わっていく子どもを、温かく見守りましょう。
自分が子どもだったころを振り返り、「親のこういうセリフがうっとうしかったな」「家族にこういうことされると嫌だったな」などを思い出して参考にすることが有効です。
親に秘密を持つことは悪いことではありません。親の助けを借りず自分だけで対応することで、自立がはかられ一人の大人へ成長していくのです。
まとめ
この記事では、子どもの自己肯定感を育む「心理的安全性」について解説しました。
心理的安全性の高い家庭環境は、子どもの心の成長をサポートし、不登校の予防や改善にもつながります。
今日からできる小さなことから、ぜひ実践してみてください。
- 心理的安全性とは、安心して自分の考えや気持ちを表現できる環境や状態のこと
- 心理的安全性の低い家庭環境は、過干渉、無関心、条件付きの愛情、感情的な叱責、過度な期待、家庭環境の不安定さなどが特徴
- 心理的安全性の高い家庭環境は、子どもの自己肯定感、自立心、コミュニケーション能力、ストレスへの抵抗力を高める
- 心理的安全性を高めるには、子どもの話をよく聞き、意見を尊重し、安心できる雰囲気を作り、一緒に時間を過ごし、褒める、叱り方を見直すことが大切
- 思春期の子どもには、自立を尊重し、適切な距離感を保ちながら、対話を大切にする