原稿こぼれ話【第5回】ダブルバインド入門:ダブルバインドは身近にある

いつもご覧いただきありがとうございます。

先日のコラムでも少し紹介しましたが、金子書房さんのNoteで連載をさせていただくことになりました「家族療法家の臨床ノート連載―事例で学ぶブリーフセラピー」というタイトルで、月二回(第2・第4水曜日)更新で1年間を予定しております。

こちらのコラムでは、連載に合わせて執筆後記のようなものを書いています。

なお、この記事ならびにNote連載で紹介している事例をはじめ、私がWeb上で紹介している事例は全て、事例掲載の許可を頂いた上でプライバシーなどに配慮し改変しております。相談内容を相談者に許可なく何かに掲載することはありません。

今回は、「【第5回】ダブルバインド入門:ダブルバインドは身近にある」についてです。

記事の紹介

前回まで、事例を通してダブルバインドと治療的ダブルバインドについて触れてきました。今回はダブルバインドについて詳しく見ていきます。まずは、ダブルバインド仮説のきっかけとなったベイトソンプロジェクトにおける統合失調症の家族研究について簡単に振り返った上で、日常にあるダブルバインドとして、職場の例、学校でのいじめの例、災害時の被災地報道の例などを紹介しています。

ダブルバインドの誤解

最近、ダブルバインドという言葉は臨床以外でも聞くようになりました。例えば、Googleで「ダブルバインド ビジネス」というキーワードで検索すると、1,870,000件ヒットしました。一方で「ダブルバインド 家族」で検索すると1,410,000件でしたので、むしろ家族心理学よりもビジネスなどの分野でよく使われているのかもしれません。

しかし、ビジネスで使われているダブルバインドは、ベイトソンプロジェクトで提案された仮説とは少々違うようです。

よくあるビジネスでのダブルバインドの説明は「『会えますか?』と聞くのではなく『今週か来週にお会いしましょう』と提案することで、会える確率が高まる」とか、「『AプランとBブランどちらがいいですか』と聞くことで、お客様は『買わない』と断ることができなくなる」などという説明です。これらには選択肢Aと選択肢Bがあるだけで、ダブルバインドの構成要素として重要な、矛盾する命令ではありません。このようなビジネスの文脈で使われるダブルバインドは、単なる誘導をダブルバインドだと誤解している場合が多く見られます。

ダブルバインドの解消法

ダブルバインドの解消法というものは、大きく2つありますが、どちらも実行するのはかなりの勇気と覚悟が必要になります。

一つは、ダブルバインドに言及すること。「言及できない」というのがダブルバインドの構成要件の一つです。したがって、「これってダブルバインドですよね」と言及することでダブルバインドから解放されることがあります。

もう一つは、その場から離れること。これも「逃れられない」というのがダブルバインドの構成要件の一つです。そこで、その場を離れて逃れることでダブルバインドではなくなります。

しかし、「言及できない」「逃れられない」からダブルバインドなのです。「言及すればいい」「その場を離れればいい」というのは、「○○したいなぁ」という人に「○○すればいいじゃん」とアドバイスするのと同じぐらい無意味なものです。一方で、「そういわれればそっか」と実行に移してうまくいくことも確かにあります。先ほど紹介したのビジネス文脈での単なる誘導がダブルバインドでない理由も「断りにくいだけで断れる」からです。関係性が軽視されているのです。

個人的な経験から

実は私自身が、ここ10年ぐらいは、ダブルバインドに陥りそうになると言及するか逃れ続けています。それによって、ダブルバインドに苦しむことはほとんどありません。その分、失ったものもありますし、避けている分ずいぶんと回り道をしているなぁと自分でも思います。

しかし、自分でダブルバインドの解消を試みているからこそ、ご相談者様の辛さや一歩踏み出せない躊躇などもよくわかるようになりました。

ダブルバインドの奥深さと解消に向けての難しさについて、記事を通して伝われば幸いです。


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