原因探しが問題の長期化・深刻化をさせる2つの理由

原因探しにこだわることで問題が長期化・深刻化するのはなぜか。子どもの特徴と記憶のメカニズムから考えてみます。

オウム返しで事実と異なる内容が作り出される

子どもはオウム返しで答えることがある

まず、有名な詩の全文を紹介します。

こだまでしょうか 金子みすゞ

「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。

「ばか」っていうと
「ばか」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。

そうして、あとで
さみしくなって、

「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。

引用:こだまでしょうか(金子みすゞ童謡集『わたしと小鳥とすずと』より)

この詩で表現されているのがまさに「オウム返し」です。別名、即時エコラリアともよばれます。

このオウム返しは、発語から2~3歳代まで多く見られ、成長に伴って自然と減っていきます。しかし、成長してもオウム返しが続く子どももいます。

オウム返しをする理由としては、

  • 相手の言葉が理解できない
  • 言葉は理解できるが、どう答えればいいかわからない

・・・という状況で起こりやすいです。

私たち大人でも、意図的なオウム返しではなく、自然とオウム返しになることはあります。

例えば、クイズ番組で何かの映像が流れて「これはいったい何?」などと出題されたときに、
「これはいったい何?」
「これはいったい何?」
「えー、これはいったい何?」

・・・などと、焦りながらつぶやく場面を見たことないでしょうか?この場合は、「どう答えればいいかわからない」から無意識にオウム返しをしていると考えられます。

オウム返しによって問題が作られる例

オウム返しによって、次のようなやり取りが行われることがあります。

【オウム返しによって問題が作られる例】

保護者「学校に行きたくないの?」
子ども「学校に行きたくないの」
保護者「学校でイヤなことがあったの?」
子ども「学校でイヤなことがあったの」
保護者「お友達にいじわるされているの?」
子ども「お友達にいじわるされているの」
保護者「イヤなこと言われたりしているの?」
子ども「イヤなこと言われたりしているの」
保護者「○○ちゃんに言われるの?」
子ども「○○ちゃんに言われるの」
保護者(これは大変だ。学校と相手の保護者にクレームを言わなければ!!絶対に許さない!)

あくまで例なので、わかりやすく極端なやり取りにしました。子どもは「どう答えればいいかわからない」からオウム返しをしているだけだとしたら大変です。

子どもの発言を元に学校や相手の保護者にクレームを言ったところで学校側も相手の保護者も「そのような事実はない」となるでしょう。その結果、「学校が隠ぺいしている」などと思い込んでしまい、学校や他の保護者からは「面倒くさい保護者」と受け止められてしまいます。話がかみ合うことはなく、平行線のまま時間だけが過ぎてしまうのです。

私は、教育委員会や学校の研修でこのような事例のスーパーバイズをすることがありました。学校からすると「事実でもないことで、クレームを言われて、どんなに丁寧に説明しても理解してくれない」となり、クレーマーやモンスターペアレントと思われてしまうこともあります。保護者さんも、お子さんを守ろうとして当然の行動をとっているはずです。お互いに子どもに安心安全な生活をさせたいという思いは同じなのに、問題がこじれてしまうことがあります。

もちろん、実際にいじめが発生していても、学校や相手の保護者が認めない場合もあります。「子どもの意見を信用するな」ということではありません。オウム返しになるような聞き方に十分注意する必要があるということです。

記憶の汚染で偽りの記憶がつくられることがある

人間の記憶はつくられ、書き換えられていく

偽りの記憶とは、実際には経験していない出来事を、自分が体験したかのように思い出してしまう現象のことを指します。人間の記憶は、脳の中で再構成されたものであるため、その再構成の過程で、実際の出来事と異なる情報が混ざってしまうことがあります。他人から聞いた話や、テレビや映画などの映像からの情報が、自分の記憶に混ざってしまうことがあります。

記憶を汚染する要因や記憶を汚染しやすい聞き取り方法など具体例はこちらにも紹介されています→ 記憶の汚染(ウィキペディア)

睡眠不足やストレスが偽りの記憶を生じやすくする

偽りの記憶が生じる原因としては、心理的な影響が考えられます。ストレスやトラウマ、睡眠不足などが、記憶の再構成に影響を与え、偽りの記憶を生じさせることがあります。また、偽りの記憶は、誰にでも起こりうるものであり、年齢や性別、知能指数、人格特性などとの関連性はありません。

偽りの記憶は、冤罪事件の原因になることもありました。
昔は、不眠不休で取り調べを続けることがありました。睡眠不足とストレスによって、取調官の発言を実体験だと混同してしまい、偽りの自白がなされたからです。
現在では警察や司法関係者は、聴取や尋問の際に、被疑者の偽りの記憶を引き起こしてしまわないよう、慎重に対応するマニュアルも準備されているほどです。
特に子どもの場合は、脳が発達途上にあり外部からの新たな情報によって記憶が書き換えられてしまう傾向があります。

くわしくは→ 子どもから信頼できる証言を得るために(外部記事)

不登校の場合、すでにかなりの強いストレスを受けている状態です。その上、夜も十分に眠れていない場合、偽りの記憶が生じてもおかしくありません。
その結果、実際には体験していないにも関わらず、不登校の原因として記憶が再構成されてしまうことがあるのです。

実際には体験していない記憶が不登校の原因となってしまっては、原因追及は不可能です。
先ほどの【オウム返しによって問題が作られる例】のように、実際にはない問題が作り出されてしまうことがあります。実際にはなかった問題を解決しようとするので、いつまでたっても問題解決はできません。例えば、偽りの記憶を何らかの被害を訴えて相手に謝罪を要求しても、実際にはその被害がないのですから謝罪してもらえないでしょう。その結果、さらに対立関係を深めて、学校や他の保護者との関係悪化につながるなど、新たな問題が生じる危険性もあります。

冷静な対応が問題解決につながる

原因追及をすることで問題が長期化・深刻化する理由をオウム返しと記憶の汚染という2つの視点から考えてみました。

原因追及が必要な時もある

繰り返しになりますが、決して「絶対に原因追及はするな」と言っているわけではありません。実際に「いじめ」や「体罰」の被害を受けている場合は、きちんと原因を特定せずに登校させることは大変危険です。しっかりと事実確認をしましょう。

事実確認をする場合には、聞き方に気をつけましょう。誘導質問や決めつけているかのような質問は避けましょう。
本人から上手に聞き出せない場合は、「体にアザやけがが増えていないか」「物やお金が無くなったり減ったりしていないか」といった観察による情報収集も有効です。

先入観を持たずに冷静な対応が大事

お子さんが「学校に行きたくない」というと、保護者の方はどうしても理由をはっきりしたいと考えるでしょう。
また、「ひどいことをされているに違いない。子どもを守るためにも、できるだけ早く子どものことばを聞き出そう」と焦るかもしれません。

「子どもが何も言ってくれないから、保護者が無理やりにでも聞き出してやる」
「子どもが××と言っているから、××に間違いない。それを認めない学校(や同級生など)は、事実を隠蔽しているに決まっている」

・・・などといった、先入観は危険です。

それらの気持ちはとても自然なことですし、保護者としては当然の考えです。全く悪いことではありません。しかし、この正義感によって問題が長期化・深刻化してしまっては本末転倒です。

大事なことは、子どもの発言に右往左往しないこと。

「うちの子は、○○と言っているが本当にそうだろうか」
「担任の先生は△△と言っているが本当にそうだろうか」
「Aちゃんのお母さんの情報だと、□□と言っているが本当だろうか」

・・・と、聞き取った情報を確かめようとする姿勢がとても大切です。

冷静になるには、他の家族に話して別の角度からの意見を聞いたり、スクールカウンセラーや養護教諭などの学校関係者や、外部のカウンセラーに相談することも有効です。

よろしければ、参考にしてください。

文献

https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/1029
http://forensic-interviews.jp/
https://ja.wikipedia.org/wiki/記憶の汚染