「トイレにすら一人で行かせてくれない」
「家事をしようとすると泣いてしがみついてくる」
「パパに預けた瞬間、火がついたように泣き叫ぶ」
——毎日この状況が続くと、心も体もへとへとになりますよね。
赤ちゃんの分離不安は、愛着が順調に育っている証拠です。
育て方の問題ではなく、正常な発達の一過程として起こるものです。
この記事では、月齢別の症状の現れ方、分離不安が起こる仕組み、場面別の具体的な対応法、家族の関わり方、そして専門家に相談すべき目安までをまとめています。
この記事でお伝えしたいこと
執筆・編集責任:吉田克彦(合同会社ぜんと代表 公認心理師、精神保健福祉士)
- 不登校の家族支援25年以上、3000家庭以上の支援実績
- スクールカウンセラー歴20年以上。小学校、中学校、高校(全日制、定時制、通信制)全ての校種で勤務経験あり。
→詳しいプロフィールはこちら
赤ちゃんの分離不安は愛着が育っている証拠
分離不安とは、赤ちゃんが母親(主な養育者)から離れることに強い不安を感じる状態です。
生後8ヶ月頃になると、赤ちゃんは「母親」と「それ以外の人」を区別できるようになります。
この区別ができるようになったからこそ、母親がいなくなると不安になるのです。
後追いや人見知りは、赤ちゃんの脳が順調に発達しているサインであり、母親への愛着が育っている証拠です。
分離不安で見られる赤ちゃんの反応
- 母親の姿が見えなくなると泣く
- 知らない人に抱かれると泣く(人見知り)
- 母親の後をどこまでもついてくる(後追い)
- 母親以外の人では泣き止まない
「私が甘やかしすぎたから離れないのでは?」と悩む母親は少なくありません。
しかし、分離不安は育て方の問題ではありません。
どんな育て方をしていても、赤ちゃんの発達過程で自然に起こることです。
後追い・人見知りは生後8ヶ月頃に始まり2〜3歳で落ち着く
「いつから始まるの?」「いつ終わるの?」——これは最も多い質問です。
月齢ごとに、よくある姿と知っておいてほしいことをまとめました。
生後6〜8ヶ月頃:分離不安の始まり
人見知りが始まる時期です。
知らない人に抱かれると泣いたり、母親以外の人を見て顔をこわばらせたりします。
この時期に知っておいてほしいこと
人見知りは、母親を「特別な存在」と認識できるようになった証拠です。
赤ちゃんの脳が「この人は安全」「この人は知らない人」と区別し始めたサインであり、順調に発達している証です。
生後10ヶ月〜1歳半:後追いのピーク — 最もつらい時期
後追いが最も激しくなる時期です。
トイレにもついてくる、母親が視界から消えた瞬間にパニック泣きをする、といった行動が日常的になります。
この時期に知っておいてほしいこと
お母さんにとって最もつらい時期ですが、愛着が最も深まっている時期でもあります。
「いつまで続くの」と思うかもしれませんが、ここがピークです。ここから少しずつ落ち着いていきます。
1歳半〜2歳半:「母親は戻ってくる」と学び始める時期
少しずつ一人遊びの時間が増えてきます。
母親が離れても短時間なら待てるようになったり、おもちゃに集中できる場面が出てきます。
この時期に知っておいてほしいこと
「対象の永続性」(目の前にいなくても母親は存在しているとわかる力)が育ち始めたサインです。
まだ不安定な時期なので、急に後追いが復活する日もありますが、全体としては落ち着く方向に向かっています。
2歳半〜3歳頃:分離不安が徐々に落ち着いてくる
保育園や幼稚園にも慣れ、友達との遊びに夢中になる場面が増えてきます。
母親がいない場所でも楽しく過ごせる時間が長くなっていきます。
この時期に知っておいてほしいこと
分離不安が完全に「消える」のではなく、頻度と強度が徐々に下がっていくイメージです。
新しい環境や体調不良時に一時的に後追いが戻ることもありますが、これも自然なことです。
以上はあくまで目安で、分離不安の強さや期間には個人差があります。
「もう1歳半なのにまだひどい」と焦る必要はありません。
一方で、3歳を過ぎても強い分離不安が続く場合や、身体症状が出ている場合は、専門家への相談をおすすめします(後半で詳しく触れます)。
トイレ・保育園・寝かしつけ — 場面別「こう言えばOK」対応集

分離不安への対応で最も大切な原則は、「予告する → 離れる → 戻る → 安心を伝える」のサイクルを繰り返すことです。
この4ステップの積み重ねが、「母親は必ず戻ってくる」という信頼を育てていきます。
トイレや家事で離れるとき

| OK対応 | 逆効果になりやすい対応 |
|---|---|
| 「ママはトイレに行くね。すぐ戻るよ」と声をかけてから離れる。戻ったら「ほら、戻ってきたよ」と笑顔で伝える | 赤ちゃんが遊んでいる隙にこっそりいなくなる。「気づいたらママがいない」体験は信頼を損ない、分離不安を強める |
短い「離れる→戻る」を1日に何度も繰り返すことで、赤ちゃんは少しずつ「離れても大丈夫」と学んでいきます。
保育園に預けるとき

| OK対応 | 逆効果になりやすい対応 |
|---|---|
| 「ママは夕方に迎えに来るよ。行ってくるね」と短く伝えて、笑顔で離れる | 別れ際に何度もハグしたり振り返ったりして長引かせる。赤ちゃんの不安がかえって強まる |
「泣いている子を置いて行くなんて」と罪悪感を覚えるかもしれません。
でも、多くの場合、母親の姿が見えなくなった後すぐに泣き止んでいます。
保育士に「離れた後の様子はどうでしたか?」と聞くと、思ったより早く落ち着くことがわかります。
父親や祖父母に預けるとき
赤ちゃんが「母親じゃないとダメ!」と泣くのは、父親や祖父母が嫌いだからではありません。
母親以外の人にはまだ十分な信頼が築けていないだけです。

| OK対応 | 逆効果になりやすい対応 |
|---|---|
| 最初は母親がいる場面で父親や祖父母と一緒に遊ぶ時間を作る。赤ちゃんが「この人も安全だ」と感じてから、短時間の預けを試す | 「はい、じゃあ、ここからはあなたが全部やって!」と突然引き離す。段階を踏まない急な交代は不安を強めます。 |
寝かしつけ・夜泣きのとき
夜はただでさえ不安が強まる時間帯です。
添い寝をしているなら、いきなりやめるのではなく、少しずつ距離を広げていく方法が効果的です。
- 最初は隣で添い寝
- 次は布団の横に座る
- その次はドアの近くで声をかける
お気に入りのぬいぐるみやタオルなど、「安心できるもの」を活用するのも一つの手です。
母親の代わりにはなりませんが、「これを握っていれば大丈夫」という感覚が少しずつ育ちます。
父親だと泣く・祖父母に「甘やかしすぎ」と言われる時の対処法
分離不安への対応は、お母さん一人で抱える問題ではありません。
家族全体で理解し、チームとして向き合うことが、結果的に赤ちゃんの安心にもつながります。
父親が「俺じゃダメなのか」と落ち込んでいるとき
父親に伝えてほしいのは、「あなたが嫌われているわけではない」ということです。
赤ちゃんにとって、母親は生まれた時から最も長い時間を一緒に過ごしてきた世界で一番安全な人です。
父親はまだ、安全基地としてのポジションをまだ築けていないだけです。
父親と赤ちゃんの時間を意識的に増やしていきましょう。
そうすると、父親も「もう一人の安全基地」になっていきます。
抱っこや遊びの時間を少しずつ積み重ねることが近道です。
祖父母に「甘やかしすぎ」と言われるとき
祖父母世代は「泣いたらすぐ抱っこするから離れられなくなる」との考えを持っている方がいます。
しかし、現在の発達心理学では、泣いている赤ちゃんに応答することが安心感を育て、結果的に自立を促すとされています。
NG例:家族が反発しやすく、ギスギスする言い方

もう、うるさいから黙ってて。
その考え方は古くて今は通用しないの!

口出しをされると放っておいてほしいと思うことも多いでしょう。
でも、そこで感情的な言い方をすると、相手は反発をしたり、非協力的になったり、ムキになって余計に口出しをしてくることがあります。
OK例:家族が納得しやすく、ニコニコになる言い方

心配してくれてありがとう。
でも、今はすぐにそばにいてあげた方が良い子に育つんだって。不思議だよねぇ~。

このように、家族の心配に寄り添った言葉にするといいですね。
忙しい時にそんな余裕がないとは思いますが、「心配してくれてありがとう」という言葉で、家族も納得しやすくなります。
何よりも避けたいのは、家族の誰かがお母さんの対応を「問題」として責めることです。
お母さんが追い詰められると、その緊張は赤ちゃんにも伝わります。
お母さんが安心できる環境を作ることが、赤ちゃんの安心に直結するんです。
3歳を過ぎても続く・身体症状がある場合は専門家に相談を
ここまで「分離不安は正常な発達の一過程」と紹介しました。
基本的には、成長とともに母親がいない状況にも慣れてきます。
以下の場合は、一度専門家に相談することをおすすめします。
相談を検討する目安(あくまで目安です)
- 3歳を過ぎても強い分離不安が続き、改善の兆しがない
- 嘔吐、食欲不振、不眠などの身体症状が繰り返し出ている
- 登園拒否が長期化し、園生活が成り立たなくなっている
- 赤ちゃん本人がひどく苦しそうで、日常生活に明らかな支障が出ている
このような場合、「分離不安症(分離不安障害)」として専門的な支援が有効なケースがあります。
ただし、「分離不安」と「分離不安症」は別のものです。
赤ちゃんの後追いや人見知りがそのまま分離不安症になるわけではありません。
この記事では診断を行うことはできませんので、気になる場合は専門家にご相談ください。
相談先としては、かかりつけの小児科、地域の保健センター、子ども家庭支援センターなどがあります。必要に応じて児童精神科を紹介してもらえることもあります。
幼児期以降の母子分離不安についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 母子分離不安とは?幼児〜中学生の症状と親にできる対応
▶ 母子分離不安チェックリストで確認する
▶ 母子分離不安と発達障害(ASD・ADHD)との関係

相談することは別に特別のことではありません。「ちょっと聞いてみよう」という軽い気持ちで大丈夫。
母親としては初めての経験ばかりでしょう。専門家はさまざまなご家庭の様子を知っているので、自分だけでは気づかない視点が得られます。
赤ちゃんの分離不安に関する、よくある質問
回答を見る際には、矢印(↓)をクリックしてください。
Q分離不安がない赤ちゃんは、愛情不足なのでしょうか?
いいえ、愛情不足とは関係ありません。
分離不安の強さには個人差があり、もともと穏やかな気質の赤ちゃんは、後追いや人見知りがあまり目立たないこともあります。「泣かない=愛情がない」ではありませんので、安心してください。
Q後追いがひどくて家事が全くできません。どうすればいいですか?
まずは「完全には離れない」工夫が有効です。
例えば、おんぶ紐で赤ちゃんと一緒に過ごしながら家事をしたり、ベビーゲート越しに母親の姿が見える状態で声をかけ続けるなど。
また、この時期は完璧な家事を目指さないことも大切です。赤ちゃんの分離不安がピークの時期は長くは続きません。「今だけ」と割り切ることも一つの選択肢です。
Q保育園に預けると毎朝泣きます。かわいそうです。このままでよいでしょうか?
預ける瞬間に泣くのは自然な反応です。そのままで大丈夫です。
多くの赤ちゃんは、母親の姿が見えなくなった後、比較的すぐに落ち着いて遊び始めます。
保育士に「離れた後の様子はどうでしたか?」と聞いてみると、安心できることが多いです。
Q父親や祖父母だと泣くのに、母親だと泣きません。父親や祖父母が嫌いなのでしょうか?
嫌いなのではありません。
赤ちゃんにとって、最も長い時間を一緒に過ごす母親が「一番安全な人」なのです。
父親や家族と過ごす時間が増えていけば、泣かなくなっていきます。
まとめ:赤ちゃんの「母親がいい!」は成長の証
赤ちゃんの分離不安は、愛着形成が順調に進んでいる証拠であり、正常な発達の一過程です。
育て方や愛情不足といった問題ではありません。
後追いや人見知りは生後8ヶ月頃に始まり、2〜3歳で自然に落ち着いていきます。
赤ちゃんは「母親が見えない=消えた」と本気で感じているため、泣くのは当然の反応です。
「予告する→離れる→戻る→安心を伝える」のサイクルを日常の中でくり返します。
そのうちに赤ちゃんの中に「母親は必ず戻ってくる」という信頼が育っていきます。
分離不安への対応は、お母さん一人で抱え込むものではありません。
父親や祖父母にも仕組みを共有し、家族全体で見守る環境が、赤ちゃんにとってもお母さんにとっても一番の支えになります。
もし3歳を過ぎても改善の兆しがなかったり、身体症状が続いている場合は、かかりつけの小児科や地域の保健センターに相談してみてください。
引用参考文献
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment. Basic Books.
- Mahler, M. S., Pine, F., & Bergman, A. (1975). The Psychological Birth of the Human Infant. Basic Books.
- American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5). American Psychiatric Publishing.(日本語版:日本精神神経学会監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院, 2014)
- MSDマニュアル家庭版「分離不安および人見知り」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-小児の健康上の問題/乳児と幼児の症状/分離不安および人見知り
更新情報
26/03/31 新規記事掲載

