子どもの気持ちが全然わからない。このままでは、何もできない。。。
親の思いを子どもに何回も繰り返し伝えるが、「わかってるよ、うるせぇな」と言われるだけで、一向に改善する兆しが見えない。
子どもも避けるようになってしまい、こちらからも話しかけるのも疲れてしまった。
実は、「子どもの気持ちがわかりたい」「こちらの気持ちをわからせたい」とこだわりすぎることが不登校の克服を難しくしている場合があります。
「わかること」より「できること」を意識することが大切です。
みなさんは、「子どもの気持ちがわからない」「不登校になった理由がわからない」「どうすればいいのかわからない」などと、「わからないこと」が出てきたらどうしますか?
多くの人は、「子どもの気持ちを理解する」「不登校になった理由を突き詰める」「どうすればいいか知る」などと、「わかろう」とするでしょう。なぜなら、「わからなければ、できない」そして「わかれば、できる」と考えるからです。しかし、この「わかれば、できる」という思い込みに大きな落とし穴があります。この記事では、「わかること」より「できること」の重要性を紹介していきます。
「わかること」と「できること」は異なる
私たちはついつい「わかってるならできるでしょ!」「わかっているのになぜできないの?」などと考えてしまいますが、実は「わかる」と「できる」は全く違います。「わかる」からといって「できる」わけではないのです。
ついつい「わかること」ばかり考えてしまう
私たちは問題を頭で理解しようとします。それは、保護者の皆様だけでなく専門家も同じです。「理解」や「分析」をすることが問題解決に必要だと考えます。しかし、「わかること」と出来ることには大きな違いがあります。
何か問題があると、「心の底から納得すれば、できるはず。できないのは、わかっていない証拠」とか、「表面上はできているけれど、理解してないからまた同じ過ちを犯すはず」などと、考えてしまいます。でも、実は「わかること」より「できること」が大切なのです。
例えば、大谷翔平選手がどういうトレーニングをしているかは調べればわかります。でも、わかったところで、大谷翔平選手のような体にはならないでしょう。禁酒・禁煙やダイエットなども「体にいいことはわかっている」「〇〇すればいいのはわかっている」、でも「できない」のです。
人は「わからない。でも、できる」そして「わかっている。でも、できない」
みなさん自身やお子さんのことを振り返ってみてください。赤ちゃんが、座り、立ち上がり、歩き、言葉を発する時に、頭で理解をしてから動いたでしょうか。「あの筋肉をこう使って」「その関節を曲げて」など、頭できちんと理解してから動き始める赤ちゃんはいません。基本的に私たちは「頭で理解する前にできる」のです。
一方で、さきほどのプロスポーツ選手のトレーニングや禁酒禁煙・ダイエットなどのように「わかっていてもできない」ことも多くあります。
重要なことは「わかること」より「できること」なのです。
そもそも、学校に行く意味を理解した上で学校に通っている児童生徒はどのくらいいるでしょうか。「行くことになっているから行く」という程度の理解で学校に行く(行ける)子がほとんどではないでしょうか。それでいいのです。逆に「学校に行かなければいけないとわかっているけれど、行けない」場合も多いのです。
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「理解」や「分析」よりも「環境設定」や「文脈づくり」
「わからせるため」や「わかろうとするため」に、私たちは理解を深め相手や自分自身を分析をします。もちろん、その理解や分析をする過程は非常に尊い時間です。しかし、「わかる」ためではなく、「できる」ための環境設定や文脈づくりが大事になります。
例えば、次のような場面を想像してみてください。
子どもがおもちゃで遊んだ時に、遊びっぱなしで片づけないことがあります。この時に、「片付けないと大事なおもちゃが無くなっちゃうかもしれないよ」「部屋が散らかってしまって歩きにくくなるよ」「歩いた時におもちゃを踏んだら、痛いでしょ?」などと、片付けが必要な理由を説明しても「やだー、面倒くさい」と片づけない場合もあります。
こんな時に、「よし、じゃあどっちが早くおもちゃを集められるか競争しよう!」と慌てて大人がおもちゃを集め始めると「待って!自分がやる~」などと、張り切ってやることがあります。
男性用の公衆トイレの小便器には、小さいマトがついていることがあります。小便器の中にマトに目がけておしっこをするため、飛び散りにくくなるのです。また、スリッパを置く位置に足形の模様をつけることで、スリッパを揃えて脱ぐようになります。
「おしっこを飛び散らないようにしてください」とか「スリッパを揃えて脱ぎましょう」などと伝えてわからせなくても、自然と期待した行動が「できる」のです。
ここで紹介した2つ例は、お片付けの必要性やおしっこが飛び散る問題点などを「わからせよう」とはしていません。自然と片づけをするように、おしっこが飛び散らないように環境設定をしているのです。
少しでもできていることを認めよう!
繰り返しになりますが、「わかること」より「できること」が大切です。もし、まぐれであっても理屈を理解してないとしても、できたときはしっかりと認めてあげましょう。「わかってないのに褒めると、調子に乗る」「気持ちを入れ替えてないので、単なるまぐれでうまくいっただけ」などと考えてしまいますが、調子に乗ってもいいじゃないですか。出来たらそれでOKです。
子どもが「あっ、これでいいんだ」と実感出来たら、自然と変わっていくはずです。
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家族や教員にも「わかること」のではなく「できること」を
ダイエットや禁煙の例をあげましたが、私たち大人も「わかるってもできないこと」がありますし、「わからなくてもできること」もたくさんあります。
ご家族との関係や担任や管理職など学校関係者に何か依頼する場合でも、できることをお願いすることが大事です。
「うちの子にはこれが必要だから」
「この通りやらないとうまくいかないから」
などと、こちらの考えを押し通そうとするとうまくいきません。持論が正しいからと言って説得や論破をするよりも、相手の意見を受け入れたフリをして現実的な対応をすることも大事です。
「絶対に見てはいけません」と言われると、なぜか見たくなったり、「勉強しなさい」と言われると急に勉強する気がうせてしまうことがあるように、人間は言葉通りに動くのではありません。だからこそ、見てもらうために「見ちゃダメ」と言ったり、宿題をやらせるために「宿題なんかやらなくていいよ」と伝えることが役立つときがあるのです。
もちろん、学校に行かせたくても(むしろ、学校に行かせたいからこそ)、あえて登校を促さないという手もあるのです。
「できるため」には失敗はつきもの
自転車に初めて乗れた時を覚えていますか?
「ペダルへの足の掛け方はこうで、ハンドルの握り方は…」などと考えれば考えるほど、体が言うことを聞かず上手に走れません。あまり頭で考えずに、ペダルに足を載せず、サドルにまたがって両足で地面をけって前に進む練習を繰り返します。そうするとバランス感覚が身につき、ペダルを踏むことができるようになります。
バランス感覚を身につける練習をする前に、「フラフラしてはいけない」「倒れてはいけない」「止まってはいけない」と言われたらどうでしょう。さらに、練習の最中に、フラフラするたびに「フラフラするな」、よろけそうなたびに「危ない、危ない!倒れちゃう」、止まるたびに「あ~ぁ、また、止まっちゃった」と言われたらどうでしょうか。自転車の練習をする気が無くなり、自転車を見るのも怖くなってしまうでしょう。
うまくなるためには、ある程度の失敗を許容しなければいけません。失敗を恐れていては何の挑戦もできません。
もちろん、自転車の練習中に車にひかれてしまったり、転倒する際に頭を強く打ってしまうような大事故は避けるべきです。そのために、車が来ない広い公園の中で練習をしたり、ヘルメットをかぶったり、適切な対策をするでしょう。
不登校の子への対応も同じです。
保護者の方のカウンセリングをしていると「先週は頑張って学校に行けたのですが、今週はまた休んでしまって。元に戻ってしまいました」といった話を聞きます。「元に戻った」というと後退したようですが、その考えは正しくありません。一度成功して、まだ2度目がうまくいっていないだけです。自転車の練習で言えば、一度うまく走れたけれど、今回はちょっとフラついただけです。常に向上しているのです。失敗を恐れて練習のモチベーションをなくさないようにしましょう。
わかっていてもできないのが人間
「わかること」より「できること」が大事だというお話でした。
それでも、子どものことを説得してしまったり「わからせよう」と口うるさく言ってしまうかもしれません。私自身も子どもにガミガミ言って、毎日のように反省しています。そのたびに「わかっているけれど出来ないことって本当に多いな」と痛感します。子どもにガミガミ言うこと自体が「わかっているけれどできない証拠」なのです。
「あぁ、言わなきゃいいのに、またひどいことを言ってしまった」などと反省する時は、「そっか、私でさえわかっていてもできないことがあるんだから、子どもが『学校に行った方がいい』と分かっていても、学校に行くことができないのも同じ苦しみなのかもなぁ」などと、想像してみてはいかがでしょうか。
「わかっていても、できないことってたくさんあるよね」などと、お子さんの気持ちに共感できて、そこから新たな会話が生まれるかもしれません。
さあ、できるところから始めてみませんか?