「子どもが登校前に突然、激しい動悸と息苦しさを訴える」
「心臓発作かと思うほど苦しそうにしている」
「学校でパニック発作を起こして保健室から動けない」
―パニック障害による不登校で悩む保護者の方は少なくありません。
◆用語解説:パニック障害
強い不安感を主な症状とする精神疾患のひとつで、従来、不安神経症と呼ばれていた疾患の一部です。特定の場面や状況に限らず、パニック発作が繰り返されます。
▶ 参照:厚生労働省「こころの耳」パニック障害
パニック障害は、突然、激しい発作が襲う精神疾患です。
本人は「死ぬのではないか」と感じるほど苦しく、救急車を呼ぶこともあります。
しかし、適切なサポートにより改善が期待できる病気です。
この記事のねらい
パニック障害とは
ここでお伝えしたいこと
- パニック障害は突然の激しい発作が特徴
- 本人は「死ぬかもしれない」と感じるほど苦しい
- 10分〜1時間で治まるが、予期不安が問題になる
パニック障害は、突然、激しい発作(パニック発作)が襲う精神疾患です。
想定していない場面で、強い恐怖とともに、動悸、息苦しさ、めまいなどの身体症状が現れます。
予期していないところで突然パニック発作に襲われてしまうので、
一度、発作を経験すると「また突然苦しくなるかもしれない」と日常生活にも怯えを感じています。
だからこそ、周囲の理解と支えが欠かせません。
パニック障害でみられる変化や反応
- 動悸がする、心拍数があがる
- 汗が出る
- 体が震える
- 息切れがする、息苦しい
- 窒息する感じがする
- 胸が痛い、胸苦しさがある
- 吐き気、おなかの苦しさ
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
- 現実でない感じ、自分が自分でない感じ
- 自分がコントロールできない、変になるかもしれないことへの恐怖
- 死ぬことへの恐怖
- 感覚まひ、うずき
- 冷たい感覚、あるいは熱い感覚がする
厚生労働省「こころもメンテしよう」より
パニック発作の経過
救急車を呼ぶこともありますが、大抵の場合、発作は10分から1時間で治ります。しかし、発作が起きると、次にいつあの苦しい発作が起きるのかという不安(予期不安)を感じます。この予期不安によって、何度も発作を経験し、パニック障害になってしまうことがあります。
この「予期不安」こそが、パニック障害の本当の苦しさです。いつ発作が来るか分からない恐怖の中で過ごすことは、子どもにとって想像以上の負担となります。
回避行動の始まり
一人でいるととても不安なので、家族がそばにいないと外出できなくなったり、以前発作が起きた場所を避けたりするようになります。
バスや電車などの公共交通機関を利用できなくなり、登校できなくなる子どももいます。教室などの密室空間、大勢集まる体育館など、逃げ場のない場所に行けなくなることもあります。
パニック障害の原因
パニック障害の原因ははっきりとは分かっていません。
最近の研究によると、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが原因のひとつとされています。
また、エナジードリンク、乳酸飲料、コーヒー、栄養ドリンクなどのカフェインを摂取すると、発作が起こりやすくなるという方もいます。これらは体質に影響していると考えられています。
パニック障害と不登校の関係
ここでお伝えしたいこと
- パニック障害は不登校の重要な原因の一つ
- 予期不安による回避行動が長期化を招く
- 未治療のまま放置すると二次的な問題が生じる
パニック障害は、不登校の重要な原因の一つです。学校生活の中でパニック発作が起きた場合、引きこもりがちになり、そのまま不登校になることもあります。
身体症状として現れる
パニック発作は、強い身体症状を伴います。登校前にこれらの症状が出ると、学校に行けなくなります。保護者は「仮病ではないか」と疑うこともありますが、本人は本当に苦しんでいます。
子どもは「学校に行きたい」という気持ちを持っています。しかし、体が言うことを聞かない。この葛藤が、さらに子どもを苦しめるのです。
予期不安による回避
「また発作が起きるかもしれない」という予期不安が強まると、学校という場所自体を避けるようになります。回避することで一時的に不安は減りますが、長期的には不安が強まり、不登校が長期化します。
行動範囲が狭くなる
パニック障害は、発作が何度も起きると、行動できる範囲が狭くなってしまいます。最初は「電車に乗れない」だったのが、「一人で外出できない」「家から出られない」と、徐々に行動範囲が狭まっていきます。
これは決して「怠け」ではありません。脳が「そこは危険だ」と誤った警報を出し続けている状態なのです。

「パニック発作が怖いから各駅停車の電車しか乗れない」という方も多いです。カウンセリングをすることで、快速や特急に乗れるようになり活動範囲が広がります。
二次的な問題
パニック障害を放置すると、うつ病、引きこもりなど、二次的な問題が生じることがあります。
そのため、なるべく早く治療することが大切です。

子どもがパニック発作になると、本人も私も怖くて、どうしていいかわかりません。

パニック発作は確かに怖いですが、適切な治療で改善できます。
まずは専門家に相談することが第一歩です。
そして、発作時の対処法を知っておくことも大切です。
失敗しない病院の受診方法
パニック発作について、まずは病院受診を考えましょう。
いきなり、心療内科や児童精神科などに行く必要はありません。
まずは、かかりつけの小児科を受診しましょう。
パニック発作は、経験したことがない人にはそのツラさが分かりません。
本人は死にそうなほど苦しいのに、周りが「気持ちの問題だから」と片付けてしまうと、
本人は誰も自分の辛さを理解してくれないと感じ、ますます症状が悪化することがあります。
身体疾患との鑑別
パニック障害に似た症状を持つ病気として、心臓病、メニエール病、バセドウ病、甲状腺機能亢進症などがあります。
不調の原因は一般の人では分からないため、まずは小児科を受診し、身体的な病気がないか確認することが大切です。
パニック発作への対処法
パニック発作が起きたときの対処法を知っておくことが大切です。
保護者が落ち着いて対応できれば、子どもの不安も軽減されます。
過呼吸への正しい対応
パニック発作中には、過呼吸という症状があります。息を吸っても吸っても、全然息ができないため、非常に苦しくパニックになるのです。
【危険】ペーパーバッグ法はダメ
以前は、ペーパーバック法(ビニール袋や紙袋の中で息をすること)が良いとされていましたが、今はあまり勧められていません。二酸化炭素が増えてしまい、逆に危険な場合があるためです。
この対処法は一時期広く知られていたため、今でも実践する人がいますが
酸欠状態を引き起こし、とても危険です。絶対に行わないでください。
正しい対処法
過呼吸が起きた場合は、以下のように対応しましょう。
- 優しく寄り添って、落ち着かせる
- 「大丈夫、すぐに治まるよ」「一緒にいるからね」と安心させる
- ゆっくりと息を吸うよう声をかける
- 「5秒かけて息を吐いてみよう」と具体的に声をかける
- 保護者自身がゆっくり深呼吸して、お手本を見せる
この時、保護者が慌てないことが何より大切です。
「この発作は必ず治まる」と信じて、穏やかに接してください。

パニック発作は、意志の力で止められるものではありません。
むしろ発作が止まらないことで不安が増えてしまい、さらに悪化します。
無理に止めようとせず「発作が出ても大丈夫」という態度が大事です。
パニック発作を予防する3つのコツ
カフェインを控える
エナジードリンク、コーヒー、栄養ドリンクなどのカフェインは、発作を起こしやすくします。
できるだけ控えましょう。特に朝の登校前にこれらを飲むことは避けてください。
規則正しい生活
睡眠不足、不規則な生活は、発作を起こしやすくします。規則正しい生活を心がけましょう。
ストレス管理
ストレスは発作の引き金になります。子どもがストレスを感じている場合は、話を聞いたり、リラックスできる時間を作ったりしましょう。
パニック障害へのカウンセリング
パニック障害はカウンセリングでも改善します。認知行動療法やブリーフセラピーが効果的です。
特にブリーフセラピーの場合は、1回~5回程度のカウンセリングでパニック症状が劇的に改善することがあります。
パニック障害に苦しむ子どもたちをサポートするために
パニック発作を経験している子どもたちは、その苦しみを理解してもらうことが非常に重要です。
これを理解するために、周りの人たちはパニック障害について正しい知識を持つことが必要です。
子どもたちは、自分が体験していることを説明することができないかもしれませんが、それでも、家族や周りの人たちが理解してサポートしてくれることで、大きな支援になることがあります。
パニック発作を経験した子どもたちは、次の発作がいつ訪れるかという不安を感じることがあります。
そのため、彼らが安心できる環境を整えることが重要です。

子どもたちは、小さなことでも大きな変化を感じやすく、その変化に適応することが難しい場合があります。
そのため、学校やその他の環境で、子どもたちが感じることができる変化を最小限に抑え、安定した環境を作ることが必要です。
よくある質問(FAQ)
Q薬を飲ませたくありません。カウンセリングだけではダメですか?
重度のパニック障害でなければ、ブリーフセラピーや認知行動療法を使ったカウンセリングだけで改善可能です。
Q薬の副作用が心配です。
パニック発作に使われる主な薬としてSSRIがあります。
SSRIの主な副作用は、吐き気、眠気、頭痛などですが、重篤な副作用は稀です。
基本的には副作用より効果の方が高くなります。
病院受診の際に医師に直接相談してみましょう。
Q治療期間はどのくらいですか?
個人差がありますが、CBTは通常10〜20回のセッション(3〜6ヶ月)、ブリーフセラピーは1〜5回(1週間~数か月)、薬物療法は6ヶ月〜1年程度が目安です。
症状が改善すれば、薬を減量・中止できます。
Q学校に診断名を伝えるべきですか?
診断名を伝えることで、学校の理解と配慮が得られやすくなります。ただし、どこまで伝えるかは、保護者が決められます。担任だけに伝える、診断名は伏せて症状だけ伝えるなど、柔軟に対応できます。
Q子どもが受診を嫌がります。どうすればいいですか?
まずは保護者だけで受診し、相談することもできます。医師に、子どもを説得する方法を相談しましょう。「病院」ではなく「相談に行く」「話を聞いてもらう」という言い方をすると、ハードルが下がります。
また、弊社のカウンセリングの場合、保護者の方の相談だけでお子さんのパニック発作が劇的に改善した例も多くあります。
Qパニック障害は治りますか?
パニック障害は、適切な治療により、多くの場合改善します。すぐに治らなくても、根気よく治療を続けることが大切です。
生涯にわたってパニック発作が起こる人は9人に1人で、パニック障害になる人は20人に1人と言われています。決して珍しい病気ではありませんし、治療可能な病気です。希望を持って、治療に取り組んでください。
さいごに

- パニック障害は突然の激しい発作が特徴 予期不安により不登校になることがある
- 過呼吸時のペーパーバッグ法は危険(避ける)
- 適切な治療で改善が期待できる
- 治療法はブリーフセラピーと認知行動療法(CBT)が効果的
- 薬物療法も適切に使えば安全
子どもがパニック発作を起こすと、本人はもちろんご家族も驚き、不安になってしまいます。
パニック障害は、決して珍しい病気ではありません。
自分たちだけで抱え込まないでください。
信頼できる友人や専門機関に相談することで、よい解決策を見つけられるかもしれません。
もし、わからないことがあれば、無料のカウンセリングで一緒に考えましょう。
引用参考文献
小児心身医学会ガイドライン集改訂第2版 2015年7月 一般社団法人小児心身医学会
厚生労働省「こころもメンテしよう」
日本医師会「ペーパーバック法のリスク」
更新情報
25/07/10 新規記事掲載
25/11/07 全面リライト、ブリーフセラピーについて掲載


