この記事でわかること

  • お子さんが不登校の理由を「言えない」本当のワケ
  • 「体の不調」に隠された心のSOSサインの見つけ方
  • 不登校の背景に考えられる具体的な症状や原因
  • すぐにでも家庭で実践できる関わり方のヒント

「学校に行きたくない」

お子さんのその一言に、どうしようもない不安と焦りで、胸が張り裂けそうになっていませんか。

「何があったの?」「どうして?」と問いかけても、返ってくるのは沈黙。
たまに返事があったとしても、「わからない」という言葉だけ…。
「理由がわからないと、どうすることもできない」と途方に暮れるご家族も少なくありません。

でも、理由がわからなくても、対応できます。

この記事では、不登校・引きこもり支援を25年以上している公認心理師が、わかりやすく説明します。

なぜ、子どもは学校に行けない理由を「言えない」のか?

お子さんが「理由がわからない」と口にするとき、それは決して反抗やごまかしではありません。
お子さん自身が発している「うまく言葉にできない」という正直な心のサインです。

この「わからない」という状況の背景には、主に2つの心理パターンが考えられます。

背景その1:本人自身も、本当に「わからない」ケース

一つは、お子さん自身も、なぜ学校に行けないのか、はっきりとした理由を自覚できていないケースです。

これは、たった一つの大きな原因があるわけではなく、日々の小さなストレスや我慢が、まるでコップの水のように少しずつ溜まっていき、ある日突然溢れてしまった状態に似ています。本人にとっては、なぜ急に動けなくなったのか、なぜ涙が出るのか、その原因を一つに特定することができないのです。

お子さんは「理由がない自分」に、誰よりも不安を感じ、自分を責めています。

背景その2:理由はわかっているが「言えない」ケース

もう一つは、お子さんの中に明確な理由があるにも関わらず、それを口にできないケースです。その背景には、お子さんの優しさや恐怖心が隠れています。

  • 「本当のことを言ったら、お父さんやお母さんを悲しませてしまう…」
  • 「先生や友達のせいだと言っても、信じてもらえないかもしれない…」
  • 「自分のこの気持ちは、きっと誰にも理解してもらえないだろう…」

このように、周りを傷つけたくない、自分がさらに傷つきたくないから、理由を言えないのです。

実際に、当相談室が不登校経験のある成人に行ったアンケート調査では、理由を聞かれても『わからない』としか答えられなかったという声が多数寄せられました。

このアンケートでは、友人関係や家庭環境、学校関係と答えた場合も、大人になって無記名のアンケートだから答えられた場合もあります。
不登校当時なら、親に対して「友達にこんなことをされて」と言いにくいでしょうし、家庭環境ならなおさら家族に伝えられないでしょう。

「なんとなくの不調」は、心と体が発するSOSサインです

「頭が痛い」「お腹が痛い」「なんだか体がだるい…」 これらの不調は、学校での緊張や強いストレスによって自律神経が乱れ、心が発しているSOSを体が代弁しているサインなのかもしれません。

お子さんの「体の訴え」を入り口に、その奥にある「心の声」に耳を傾けてみましょう。

不登校の背景に考えられる原因|症状・気質別の可能性

ここでは、不登校の背景として考えられる代表的な症状や気質を、タイプ別に解説します。

体の症状が「SOS」として強く出るケース

学校に行けない背景には、しばしば「体の不調」が大きく関わっています。
頭痛や腹痛、めまいなど、目に見える身体症状が強く現れる場合、それは心のストレスが体に現れているサインかもしれません。
まずは、こうした体のSOSに気づくことが、適切な対応の第一歩です。

起立性調節障害(OD)

「朝、どうしても起きられない」「起き上がると頭痛やめまいがする」。
それは怠けではなく、自律神経の病気かもしれません。
特に思春期の子どもに非常に多く見られる症状です。

過敏性腸症候群(IBS)

学校やテスト前など、緊張する場面で腹痛や下痢を繰り返していませんか?
「またお腹が痛くなったらどうしよう」という強い不安が、学校から足を遠ざけてしまうことがあります。

摂食障害

極端に食べない、逆に食べ過ぎてしまう、体重に異常にこだわる。
食事の乱れは、自己肯定感の低下や強いストレスなど、心のバランスが崩れているサインかもしれません。

心の不安や恐怖が「SOS」として強く出るケース

体に大きな症状は出なくても、心の中で強いブレーキがかかり学校に行けないことがあります。
大人から見ると「気持ちの問題だ」「気の持ちようだ」と片付けられがちですが、
本人の意思ではコントロールできない、切実な恐怖感や不安が原因となっています。

不安障害・パニック障害

漠然とした不安に常に襲われていたり、突然の動悸や息苦しさ(パニック発作)に襲われたり。「またあの発作が起きたら…」という予期不安から、教室などの特定の場所が怖くなってしまいます。

場面緘黙症

家では普通に話せるのに、学校など特定の場面や状況になると、全く話せなくなってしまう症状です。
本人の意思とは関係なく、不安や緊張が体を固まらせてしまいます。

生まれ持った気質や環境が「SOS」の引き金になるケース

子どもがもともと持っている気質や、学校・家庭などの環境要因が、不登校のきっかけになることもあります。
敏感な性格や人間関係のトラブルなど、目に見えにくい背景が影響している場合も少なくありません。
子どもの個性や置かれた状況を理解し、根本的な背景に目を向けましょう。

HSC(ひといちばい敏感な子)

音や光、人の感情など、様々な刺激に非常に敏感で、疲れやすい気質を持っています。
集団生活である学校は、HSCの子にとって刺激が多すぎ、エネルギーを消耗しきってしまう場所なのかもしれません。

いじめ・人間関係

お子さんは、学校での辛い出来事を隠しているかもしれません。
「いじめられているのを知られるのが恥ずかしい」「心配をかけたくない」などと家族に打ち明けられないのです。
まずは子どもの安全を確保し、心の傷に寄り添うことが最優先です。

明確な原因が見当たらないケース

いじめや特定の症状など、はっきりした原因が見つからないことも少なくありません。
子ども自身が「わからない」と言う場合、それは「言えない」のではなく、本当に理由がないのかもしれません。

このような時に「原因探し」を続けることは、かえってお子さんを追い詰めるため危険です。
また、人間関係がこじれたり、新たな問題を生み出すこともあります。

病院?カウンセリング?保護者が次に取るべき行動とは

お子さんに当てはまりそうな症状は見つかりましたか? 「すぐに病院に連れて行くべき?」と、また新たな疑問や焦りが生まれているかもしれません。

医療機関の受診を検討すべきケース

お子さんの命や健康に直結するような状態(著しい体重減少、自傷行為など)が見られる場合は、まずはかかりつけの小児科に受診をしてください。

家庭だけで抱えずに専門家を頼るべきか、一つの目安として、以下の項目をご確認ください。
複数の項目に当てはまる、あるいはいずれかの状態が長く続いている場合は、一度相談することをおすすめします。

【体や行動にあらわれるサイン】

  • 睡眠の大きな乱れ 全く眠れていない日が続く、または昼夜が完全に逆転し、一日中寝て過ごしている。
  • 食事の極端な変化 食欲が全くなく、体重が明らかに減っている。あるいは、逆に過度に食べ続けてしまう。
  • 衛生観念の著しい低下 お風呂に何日も入らない、同じ服を着続けるなど、身だしなみに関心がなくなる。
  • 自傷行為 リストカットやアームカット、壁に頭を打ちつけるなど、自分自身を傷つける行為。

【心や会話にあらわれるサイン】

  • 気分の極端な落ち込み 理由もなく泣き出すことが増え、笑顔が全く見られない状態が2週間以上続いている。
  • 無気力・無関心 以前は好きだった趣味やゲーム、友人との交流など、すべてのことに関心を示さなくなる。
  • 「死にたい」「消えたい」という言葉 直接的でなくても、「生きていても意味がない」「楽になりたい」といった発言が聞かれる。
  • 暴力や暴言 家族に対して、以前では考えられなかったような激しい言葉を使ったり、物を壊したりする。
  • 幻覚や妄想 「悪口を言われている声が聞こえる」と言ったり、誰もいないのに話していたり、現実的ではないことを強く信じ込んでいる。

これらすべてに当てはまらなくても、保護者の方が「何かがおかしい」「今までのこの子とは違う」と強く感じる場合は、その直感を信じて専門機関に相談することが大切です。

上記のサインは、以下のガイドラインを元に、不登校なんでも相談室がまとめました。
文部科学省『学校における子供の心のケア』(PDF)
小児科医のための不登校診療ガイド
学校と医療のより良い連携のための対応指針 小学校版(PDF)


「何科を受診すればいいかわからない」
「児童精神科に受診予約を取るため問い合わせたら『1年以上先までいっぱい』といわれた」

このような時は、まずかかりつけの小児科に受診をしましょう。
必要があれば、紹介状を書いてもらうこともできます。

「診断がつかない悩み」にこそ、カウンセリングが力を発揮します

病院は「病気」を診断し治療する場所ですが、カウンセリングは、診断名がつかなくても、なぜそうなっているのかという「背景」や「心の状態」を理解し、今後の対応を一緒に考える場所です。

特に、不登校の問題は、お子さんだけでなく、親子関係や家庭環境など、様々な要因が絡み合っています。心の専門家である公認心理師は、その絡み合った糸を、保護者の方と一緒に丁寧に解きほぐしていくパートナーです。

「何科に行けば?」「病院はまだ早いかも…」そんな時こそ、まずカウンセリングで状況を整理することをおすすめします。
「子どもが受診を拒否している」「家族が受診を反対している」という場合も、どのように進めればいいか一緒に考えることができます。

まずはお父さん・お母さんの気持ちを整理しませんか?

お子さんのことを考えるあまり、ご自身のことは後回しになっていませんか。
保護者の方が少しでも心穏やかになることが、状況を好転させる一番の近道です。ぜんとカウンセリングでは、保護者様のみのご相談も積極的にお受けしています。オンラインカウンセリングの詳細を見てみる

▶ 家庭でできる関わり方のヒント記事はこちら

不登校に関するよくあるご質問(FAQ)

Q
無理にでも学校に行かせた方がいいですか?
A

多くの場合、無理強いは逆効果です。お子さんの心がエネルギー切れを起こしている状態なので、まずはゆっくり休ませ、安心できる環境を整えることが最優先です。

Q
ゲームや動画ばかり見ていて心配です。
A

ゲームや動画が、お子さんにとって唯一の「辛い現実から逃げられる場所」になっている可能性があります。
頭ごなしに禁止するのではなく、まずはその役割を理解し、時間を決めるなどのルールを一緒に考えることをおすすめします。
詳しくは▶【没収は危険】不登校でゲームばかりしている子への理由と対処法

Q
親の育て方が原因なのでしょうか?
A

不登校は、様々な要因が複雑に絡み合って起こるもので、決して「親のせい」という単純な問題ではありません。ご自身を責めることは、どうかやめてください。
ただし、これから保護者の方ができることはたくさんあります。
もし、ご自身を責めてしまう時間があるなら、専門家に相談をして今から何ができるかを考えましょう。

まとめ:一人で抱え込まず、専門家という「伴走者」を頼ってください

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。 原因を探ることは大切ですが、「原因探し」に疲れ果ててしまわないでください。 今、この瞬間もお子さんと向き合い、心を痛めているあなた自身の頑張りを、どうか誰よりもまずご自身が認めてあげてください。

そして、もしこの長いトンネルの出口が見えないと感じたら、いつでも私たち専門家を頼ってください。 あなたとあなたのお子さんが、心から笑える日を信じて、私たちはここにいます。