
なぜうちの子は学校に行かないの?理由がわからない。

無理矢理にでも学校に行かせた方が良いのか、見守ったほうがいいのか。悩んでしまう…。
お子さんが学校に行けなくなったとき、多くの保護者の方がこのような疑問を抱きます。
不登校は、決して珍しいことではありません。
文部科学省の調査によれば、小中学生の不登校は年々増加しており、どの家庭でも起こります。
実際に我が子が学校に行けなくなると、「何が起きているのか」「どうすればいいのか」と戸惑い、不安になるのは当然です。
この記事でお伝えしたいこと
不登校の基礎知識
まず、不登校についての基本的な知識を整理しておきましょう。

「30日以上」という定義はあくまで統計上のものです。
実際には、数日休んだだけで不安を抱える保護者の方もいれば、数ヶ月経ってから相談に来られる方もいます。大切なのは日数ではなく、子どもと保護者がどう感じているかです。
不登校の現状

不登校は年々増加しています。
最新のデータでは
小学校全体では2.3%(43.5人に1人)
中学生全体では6.8%(14.7人に1人)
また、不登校の原因も多様化しています。
現在は「なんとなく」「理由がわからない」というケースが増えています。
不登校の経過
不登校はお子さんによって、きっかけや変化はさまざまです。
おおむね以下のような経過があります。
初期段階では、お子さんは「学校に行きたいけど行けない」という葛藤を抱えています。
朝になると体調不良を訴えたり、玄関で立ち止まったりします。
この時期、保護者の方は「励ませば行けるかも」と感じることが多いですが、無理な登校刺激は逆効果になります。
中期段階になると、お子さんは学校のことを考えること自体を避けるようになります。ゲームや動画に没頭したり、一日中寝ていたりします。保護者の方は「このままでいいのか」と不安になりますが、これは心のエネルギーを回復させるために必要な時期です。
回復期に入ると、少しずつ外に目が向くようになります。家での活動が増えたり、学校以外の場所に興味を示したりします。この時期に適切なサポートがあれば、学校復帰や別の進路に向けて動き出すことができます。
ただし、この経過は一直線ではありません。行きつ戻りつしながら、少しずつ前進していくものです。
不登校の経過や段階について、より詳しく知りたい方は、以下の記事で年齢別・状況別に解説しています。
→ 不登校のゴールは再登校ではなく子どもの自立(自律) カウンセラーが提案するGTNとは?
学校に「行かない」ではなく「行けない」
不登校を理解する上で、最も重要なことは、子どもが学校に「行かない」のではなく「行けない」という視点です。
この考え方の違いは、対応の仕方を根本から変えます。
言葉の変化から考える
かつて、学校に行けない子どもたちは「(行けるけど)学校に行かない」「拒否している」と考えられていました。
しかし、研究が進み、実際の子どもたちの声を聞く中で、多くの場合「(行きたいけど)行けない」という実態が明らかになってきました。
登校拒否から不登校へ
日本国内では、かつて「登校拒否」という言葉が使われていました。
しかし、この「拒否」という言葉には、まるで子どもが自分の意志で学校を拒んでいるかのような響きがあります。実際には、多くの子どもが「行きたいのに行けない」という苦しみを抱えていることがわかり、現在は「不登校(登校していない状態)」という表現に変わっています。
refusalからavoidanceへ
この変化は日本だけではありません。
海外でも、従来使われていた「School refusal(学校拒否)」という用語が見直されています。2024年のオーストラリア政府調査や複数の学術研究では、「refusal(拒否)」という言葉が子どもを責める印象を与えると指摘されています。
そこで、「emotionally based school avoidance(感情に基づく学校回避)」という代替案が検討されています。この表現は、学校に行けないことが「わがまま」や「怠け」ではなく、感情的な苦痛が原因であることを明確にします。
実際、不登校の94.3%がメンタルヘルス問題(不安、うつなど)を伴っていることが明らかになっています。
「行かない」ではなく「行けない」で対応が変わる
このように、国内でも海外でも「行かない(拒否)」ではなく「行けない(回避)」という理解に変わっています。
そして、この理解の変化は、対応の仕方を根本的に変えます。
無理強いや、説得は逆効果
「学校に行けるのに行かない」と考えると、「説得をしたり無理やりにでも行かせよう」という対応になりがちです。
しかし、「行きたいけど、行けない」のであれば、無理強いや説得は逆効果になります。
無理に登校させようとすることは、溺れている人を「泳げ!頑張れ!」と励ますようなものです。本人は必死で苦しんでいるのに、さらに追い詰めることになってしまいます。

25年以上の支援経験の中で、無理な登校刺激によって症状が悪化したケースを数多く見てきました。
「あと一押しで学校に行けるはず」という期待が、かえって子どもを追い詰めてしまうのです。
登校を目指すとしても、まずは「行けない」という状態を受け入れることが、回復への第一歩です。
苦痛や不安を取り除く、安心できる環境作り
「emotionally based school avoidance(感情に基づく学校回避)」と考えれば、重要なことは苦痛や不安を取り除き、安心できる環境を作ることだとわかります。
まずは家庭を「安全基地」にすることが大切です。学校に行けなくても、家では安心して過ごせる。失敗しても責められない。自分の気持ちを聞いてもらえる。そんな環境があってこそ、子どもは少しずつエネルギーを回復できます。
不登校の初期対応について、具体的なNG例と対処法を知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
苦痛や不安の原因
苦痛や不安を取り除くことが大事です。
子どもたちが抱える苦痛や不安とは、どのようなものでしょうか?
実際には、一人ひとり異なりますが、代表的なものを紹介します。
対人関係
学校は、さまざまな人間関係が交錯する場所です。
その中で、苦痛や不安が生じることがあります。
クラスメイトとの関係
クラスメイトからのストレートな言葉や仲間外れなどが苦痛になることがあります。
「あの子と同じグループになりたくない」
「休み時間に一人でいると変な目で見られる」
「LINEグループから外された」
明確な攻撃でなくても、微妙な距離感や空気感が、子どもには大きなストレスになります。
また、新学期に新しいクラスになじめるかを不安に感じるお子さんも少なくありません。
「また一から人間関係を作らなければならない」というプレッシャーが、春休み明けの不登校につながることもあります。
教職員との関係
さまざまな教員がいます。もちろん、全員と相性がいいわけではなく、合わない教員も少なくありません。
「あの先生に怒られるのが怖い」
「質問したいけど、ちゃんと答えてくれなかったらどうしよう」
「先生の機嫌が悪いと、クラス全体がピリピリする」
また、教員の善意であっても、「みんなの前で発表させる」「できるまでやらせる」といった指導が、子どもにとっては大きな苦痛になることがあります。
上級生や下級生との関係
部活動での先輩後輩関係、登下校中の上級生の目線、体育の授業での他学年との接触など。
予期しない場面での人間関係が不安の種になることもあります。
勉強
勉強がわからなくなると、授業中に静かに座り続けることは苦痛になります。
「授業が全然わからない」
「テストで悪い点を取ったらどうしよう」
「発表で間違えたら恥ずかしい」
学習障害(LD)がある場合、特定の科目だけが極端に難しく感じられ、それが強いストレスになります。
一方で、塾などで先取り学習を進めた結果、授業がつまらなくて辛くなることもあります。
すでに知っている内容を何もせず、黙って座って聞かなければならないのは、とても苦痛です。
また、完璧主義の子どもは、「100点以外は許せない」「一つでも間違えたら失敗」と考えてしまい、過度なプレッシャーを自分にかけてしまいます。

学業への不安は、「勉強ができない」という単純な問題ではありません。
「失敗が怖い」「完璧でなければならない」「親を失望させたくない」といった、複雑な心理が絡み合っています。
成績の良い子が突然不登校になるのは、このような心理的背景が多いのです。
学習に関する不安や、家庭での学習サポートについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
苦痛や不安への対応
子どもたちは、苦痛や不安に直面したとき、さまざまな方法で対処しようとします。
一見「問題行動」に見えるかもしれませんが、実は苦痛から自分を守るための防衛反応です。
たくさん考える
苦痛や不安を克服するときに、たくさん考える人がいます。
「どうすれば学校に行けるようになるだろう」
「なぜ自分はこうなってしまったんだろう」
「明日こそは行けるかもしれない」
ベッドの中で何時間も考え込んだり、同じことを繰り返し考えたりします。
しかし、考えれば考えるほど不安が大きくなり、かえって苦しくなることもあります。
また、どんなに考えたところで自分にはどうすることもできない問題も多くあります。
他のことで気を紛らわす
苦痛や不安に直面したくない場合、ほかのことで気を紛らわせようとします。
これは決して「逃げ」ではなく、心を守るための正常な反応です。
ゲームや動画にハマる
学校に行けない子どもの中には、ゲームや動画に夢中になる子が多くいます。
これを見て、「ゲームばかりして怠けている」と感じる保護者の方もいるかもしれません。
しかし、実際には、ゲームや動画に没頭することで、苦痛や不安への直面化を避けているのです。
ゲームの世界では、学校の人間関係も勉強の不安も存在しません。
達成感を得られ、自分をコントロールできる安全な場所です。
だからこそ、子どもたちはそこに没頭するのです。
安全安心を求めているので、無理やりにゲームを没収したりすることは不適切です。
唯一の逃げ場を奪われた子どもは、さらに追い詰められてしまいます。

「ゲームを取り上げれば学校に行くようになる」と考える保護者の方がいますが、これは逆効果です。
ゲームは苦痛を和らげる「鎮痛剤」のようなものです。
もちろん、お子さんが一日中ゲームばかりやる姿に心配する保護者の気持ちもよくわかります。
「やるか/やらないか」ではなく、「どうすれば減らせるか」「ゲームをしない時間に何をして過ごすか」を考えることが大事です。
趣味
ゲームや動画以外にも、趣味に没頭することがあります。
絵を描く、音楽を聴く、スポーツをする、読書をする。
これらも、何かに没頭することで、苦痛や不安を考えずに済むようにするための対処法です。
趣味に没頭することは、エネルギーの回復にもつながります。
好きなことをしている時間は、心を癒す貴重な時間です。
勉強
意外に思われるかもしれませんが、趣味ではなく勉強に没頭するお子さんもいます。
「学校には行けないけれど、勉強はしなければ」という責任感から、家で猛勉強するケースです。
「学校に行けない自分」への罪悪感を勉強で埋めようとしている場合もあります。
何もしない
苦痛や不安があまりにも大きいとき、「何もしない」「何もできない」という状態になることがあります。
一日中ベッドで横になっている、ぼんやりと天井を見ている、話しかけても反応が薄い。
これは、ポリヴェーガル理論で説明される「シャットダウン(凍りつき)反応」と呼ばれる状態です。過度なストレスに対して、神経系が防衛的に活動を停止させている状態です。
この状態は「怠け」や「やる気のなさ」ではなく、生存のための本能的な反応です。無理に活動させようとせず、まずは安全を感じられる環境を整えることが重要です。
苦痛や不安の表現
苦痛や不安は、さまざまな形で表現されます。
特に、言葉で表現することが難しい子どもの場合、体や行動を通して苦痛を訴えることがあります。
身体症状
一番多いのは身体症状です。言葉にできない苦痛や不安を、体が代わりに表現しています。
睡眠の乱れ
夜眠れなくなる、朝起きられなくなる、夜中に目が覚める、悪夢を見る。
不安が強いと、睡眠の質が著しく低下します。朝起きられないのは「怠け」ではなく、不安によって睡眠が妨げられている可能性があります。
腹痛、下痢、便秘
「お腹が痛い」「トイレから出られない」
不登校のお子さんには、過敏性腸症候群(IBS)で悩む方も多くいます。不安やストレスが腸の動きに直接影響を与えるためです。
その他の身体症状
頭痛、吐き気、めまい、動悸、息苦しさ。
これらは「仮病」ではありません。不安やストレスが、実際に身体症状として現れているのです。
身体症状について、それぞれ詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
外で話さない(場面緘黙)
苦痛や不安から、特定の場面で会話ができなくなるお子さんもいます。
家では普通に話せるのに、学校や外では一言も話せない。これを「場面緘黙」と言います。
「話したくない」のではなく、不安のために「話せない」のです。
何かへのこだわり
苦痛や不安を軽減させるために、何かにすがることがあります。
ゲームや動画
前述の通り、ゲームや動画に過度に依存することがあります。
「やめられない」のは、それが唯一の安心できる場所だからです。
体型や食事
体型や食事などにこだわりを見せて、拒食や過食などになることがあります。
「自分の体重だけはコントロールできる」という感覚が、不安を和らげることがあります。
エスカレートすると、摂食障害につながる危険性があります。
母子分離不安
母親との関係にこだわり、母親と常にそばにいないと気が済まない状態になります。
学校という不安な場所から離れるために、唯一の安全基地である母親に強く依存するのです。
こだわりや依存について、それぞれの対応を知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
責任追及
苦痛や不安の原因を自分なりに特定し、それを攻撃することで不安を解消しようとすることがあります。
他者への攻撃
「あいつのせいでこうなった」と過度に他者を攻撃する場合があります。
もちろん、いじめ被害にあった場合など、相手に非がある場合もあります。しかし、相手に非がなくても、不安を解消するために誰かを責めてしまうことがあります。
学校の先生、クラスメイト、家族。誰かを悪者にすることで、自分の苦痛に理由をつけようとしているのです。
自分への攻撃
逆に、「自分がこんなだからだ」と自分自身を責めてしまうことがあります。
「自分がダメだから学校に行けない」「親に迷惑をかけている自分は価値がない」「消えたほうがいい」
その結果、自傷行為(リストカット、頭を壁に打ち付けるなど)に及ぶこともあります。自分を罰することで、罪悪感を軽減しようとしているのです。
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自傷行為を見つけたとき、多くの保護者の方がパニックになります。しかし、責めたり、過度に心配したりすることは逆効果です。自傷行為は、言葉にできない苦痛を表現する手段であり、SOS のサインです。まずは専門家に相談し、子どもが安全に気持ちを表現できる方法を一緒に見つけることが重要です。
攻撃性や暴力について、適切な理解と対応を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
問題は「学校にいけないこと」そのものではない
ここまで、子どもたちが抱える苦痛や不安について解説してきました。
しかし、実際に保護者の皆さんが悩むのは、「学校に行けないこと」そのものではなく、「学校に行けないことによって生じる問題」ではないでしょうか。
代表的な問題を以下に紹介します。
共働きで子どもを見れない
現在、8割以上が共働き世帯です。
特に小学生の不登校の場合、子どもだけで家で過ごさせることには不安があり、仕事を休む必要が出てきます。「このまま仕事を続けられるのか」という不安を抱える保護者の方は少なくありません。
生活リズムが崩れる
学校に行かないことで、子どもが朝起きなくなり、昼夜逆転になることがあります。
「このままで大丈夫なのか」と心配になりますが、無理に生活リズムを正そうとすると、かえって親子関係が悪化することがあります。
家族内で意見が対立する
自分は「学校に行けない」と理解しているが、配偶者や祖父母は「甘え」「行きたくないだけ」と受け止めている。
家族内で意見が対立すると、子どもはさらに居場所を失い、保護者は孤立してしまいます。
わかっているがついイライラする
「学校に行けない」と頭では理解しているが、昼間ゲームをしている姿を見ると、甘えているように見えてしまってイライラしてしまう。
こうした感情は、決して「悪い親」だからではありません。多くの保護者の方が同じように感じています。
勉強が遅れてしまう
学校に行けないことで授業が受けられず、勉強の遅れが心配になります。
「このままでは高校に行けないのでは」「将来困るのでは」という不安は当然のことです。
きょうだいへの影響
学校に行けない子どもに時間を取られ、他のきょうだいが「ずるい」「自分も休みたい」と言うことがあります。
きょうだいへの対応に困る保護者の方は多くいます。
学校への連絡が負担
毎日欠席連絡をするのが苦痛。家庭訪問に来るのを対応するのが面倒。登校を働きかけられるのがやっかい。
学校とのやり取りが大きなストレスになることがあります。
誰にも相談できない
子どもが学校に行けないことについて、誰にも相談できず一人で抱えてしまう。
「こんなこと、誰に話せばいいのか」「恥ずかしくて言えない」。こうした孤独感が、保護者を追い詰めます。
将来が不安
「学校に行くことを無理強いしないほうがいい」と言われるが、このまま学校に行かないと、将来、進学や就職ができないのではないかと心配になる。
この不安は、多くの保護者の方が抱えています。
このまま、引きこもってしまったらどうしよう
学校に行けず毎日家で過ごしている。このまま引きこもってしまったらどうしよう。
しかし、不登校と引きこもりは別の問題です。適切な対応をすれば、多くの子どもは回復していきます。
これらの具体的な問題について、それぞれの対応策を知りたい方は、以下の記事が参考になります。
まとめ
この記事では、不登校の子どもたちが抱える苦痛と不安について、基礎知識から具体的な表れ方まで詳しく解説してきました。
重要なポイント
- 不登校は珍しくない(小中学生の約30人に1人)
- 子どもは「行かない」のではなく「行けない」
- 国内外で用語の見直しが進んでいる
- 無理強いや説得は逆効果
- 安心できる環境作りが最優先
- 苦痛や不安の原因は多様(対人関係、学業など)
- 子どもは苦痛に対処しようとしている(ゲーム・動画への没頭は「逃げ」ではなく「防衛」)
- 何もしない状態は「シャットダウン反応」(これらは正常な心理的反応)
- 苦痛は体や行動で表現される(身体症状、こだわり、攻撃性)
- 本当の問題は生活上の困難(仕事との両立、家族の対立、将来への不安)
不登校の子どもたちは、大人が想像する以上の苦痛と不安を抱えています。
その苦痛を理解し、安心できる環境を整えることが、回復への第一歩です。そして、保護者の皆さん自身も、一人で抱え込まず、適切なサポートを受けることが大切です。





