「些細なことで深く傷つく」
「クラスの騒がしさに耐えられない」
「友達の何気ない一言をずっと気にしている」
―もしかしたら、お子さんは「HSC(とても敏感なお子さん)」かもしれません。
◆用語解説:HSC(Highly Sensitive Child)
HSCは約5人に1人が持つ生まれつきの気質のこと。
その繊細さゆえに学校という環境が非常に負担になり、不登校につながることがあります。
HSC(繊細なお子さん)についてご家族からの相談は年々増加しています。
繊細すぎるとお子さんは学校でも家庭でも傷つき疲れます。
そのままでは学校を休んでも家で安らげず、休息ができません。
また、ご家族もお子さんの対応に過敏になり疲弊します。
この記事では、繊細さの背景や対応法を紹介します。
この記事でお伝えしたいこと
不登校の原因の全体像を知りたい方は、以下のまとめ記事をご覧ください
▶ 不登校の原因は?「理由がわからない」も含めて、考えられる心と体のサイン・症状を徹底解説
HSC(非常に敏感な子)は5~6人に1人
HSC(Highly Sensitive Child:非常に敏感な子)の略称です。
これは、子供の感受性が非常に高いことを指し、子供が環境の変化や刺激に強く反応する特徴があります。
アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士によって提唱された概念です。
HSCの特徴

HSCの4つの特性(DOES)
HSCには、以下の4つの特性があります。頭文字を取って「DOES(ダズ)」と呼ばれます。
D:Depth of processing(深く処理する)
物事を深く考え、じっくり観察する傾向があります。表面的ではなく本質を捉えようとするため、決断に時間がかかることがあります。
O:Overstimulation(過剰に刺激を受けやすい)
音、光、匂い、触覚などの刺激に敏感です。人混みや騒がしい場所で疲れやすく、刺激が多いと圧倒されてシャットダウンすることがあります。
E:Emotional reactivity and high empathy(感情反応が強く、共感力が高い)
他人の感情を敏感に察知します。共感しすぎて相手の感情に巻き込まれたり、映画やニュースの悲しい場面に深く影響されることがあります。
S:Sensitivity to subtleties(些細な刺激を察知する)
小さな変化に気づき、他の人が見逃すような細かいことに気づきます。人の表情や声のトーンから感情を読み取る力が強いです。
より具体的には、次のような特徴があります。
- 五感の感受性が鋭い
- 人の気持ちや場の雰囲気に敏感
- 騒音や光に敏感
- 疲れやすく、回復に時間がかかる
- 慎重で心配性
- 完璧主義
- 正義感が強い
- 想像力豊かな
- 独創的なアイデアを持っている
HSP(Highly Sensitive person:非常に敏感な大人)は人口の約15~20%が該当します。
つまり、5~6人に1人はHSPやHSCとなり、とても身近にいるのです。
例えるならば「100人いるうちでかけっこをして上位15~20人の人を『足の速い人』とよぶことにする」と同じように、
「100人いるうちで敏感さや繊細さにおいて上位15~20人に該当する人・子どもを『HSP・HSC』とよぶことにする」という意味です。
特別に何か大きな問題があるわけでもないですし、誰でも多かれ少なかれ似たような悩みはあるものです。
また、「自分はHSP・HSCなのか、違うのか」と考えるのもあまり意味がありません。
「昨日は13番だったから足が速い人だったけれど、今日は21番だったから足が速い人ではない」
などと一喜一憂しても仕方がありません。
「他の人に比べれば足の速い方だけれど、世の中にはもっと足が速い人がいる」というのと同じです。
「自分は敏感な方だけれど、世の中にはもっと敏感な人がいるかもしれない」ということです。

病気ではないということですが、やっぱり気になってしまいます。

「自分はHSP・HSCだから生きにくいんだ」と考えるよりも、
「人よりも敏感だから苦労する時もあるな。楽になるためにはどうすればいいかな」と考えるように意識するといいですね。
HSCとHSPは「大人か子どもか」の違い
HSCは、Highly Sensitive Child(非常に敏感な子)、HSPは、Highly Sensitive Person(非常に敏感な人)の略称です。
つまり、HSCは子ども、HSPは大人に使います。
HSPもHSCも医学用語ではないため、「○○歳未満はHSC、○○歳以上はHSP」などの明確な定義はありません。
もともとは、「繊細な人」という意味で”HSP”という言葉が使われ、繊細な子どもについて”HSC”とよばれるようになりました。
HSCと発達障害の違い
HSCと発達障害は、似たような特徴を持ちますが、異なる点もあります。
HSCは、発達障害のように脳機能の問題ではなく、感受性が豊かで敏感という特性を持っています。
人間を機械に例えると、発達障害は情報処理の能力に偏りがあり得意な部分と不得意な部分のばらつきが出てしまう状態といえます。
一方で、HSCの場合はセンサーが過敏すぎて些細なことでアラームが鳴り続ける状態です。
また、繰り返しになりますがHSCは「他の人より敏感だ」という意味です。
したがって、発達障害を抱える方でHSCに該当する方ももちろんいます。

先ほど、足の速さを例に出しました。足が遅い人の中には、体調を崩して調子が悪い人もいれば、障害があるために早く走れない人もいるでしょう。足が遅いことは病気でも障害でもありませんが、足が遅いから「病気も障害もない」とはいえませんよね?
同じように「繊細すぎることは病気や障害ではない」のは正しいですが、「繊細すぎるから病気や障害ではない」とはいえません。
HSP・HSC関連ビジネスにご注意ください
保護者が子どもの敏感さを理解するために、いろいろ調べることは大事です。
しかし、HSPカウンセラーなどと名乗って本を出版したり、相談に応じている詐欺師まがいの人もいます。
それらに相談しても不安だけをあおられて、どんどん高額のサービスを売りつけられることも多いので気をつけましょう。
HSP・HSCは病気ではありません!
病院で診断はできませんし、脳波でわかるものでもありません。充分に気を付けてください。
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不登校とHSCの関係
敏感すぎる子は、「深く考えすぎる」「五感が鋭い」「共感力が高い」「観察力が鋭い」という特徴があります。
これらの特徴が不登校に関係することがあります。
HSCの子どもが不登校になる理由:学校生活での過剰なストレス

HSCの子どもは、その繊細さゆえに、学校でストレスを受けやすく、心身ともに疲弊します。
その結果、疲れ果ててしまい学校に行けなくなるこもいます。
1. 絶え間ない感覚刺激による疲労
学校は、HSCの子どもにとって刺激が過剰な環境です。この刺激が一日中続くと、脳が処理しきれず疲労困ぱいの状態になります。
- 聴覚的刺激:クラスの騒がしさ、ざわめき、チャイムの音、体育館での声の反響、机を引く音。
- 視覚的刺激:蛍光灯の光のちらつき、窓からの強い日差し、派手な掲示物。
- 触覚的刺激:服のタグや縫い目、チクチクする素材、集団行動時の身体接触(列でぶつかるなど)。
- 嗅覚・味覚的刺激:体臭、柔軟剤の香り、給食の匂い、食べられないものを口にする苦痛。
2. 高い共感力と気疲れ
HSCの子どもは、他人の感情を敏感に察知し、気を遣いすぎてエネルギーを消耗します。
- 場の雰囲気:クラスメイトの感情的な対立や、先生の機嫌の悪さを敏感に察知し、自分のせいだと感じたり、調整役になろうとしたりする。
- 対人関係:誰からも嫌われないように全員に気を使い、常に「相手の顔色」をうかがってしまう。
- 自己嫌悪:友達との遊びでも、自分の意見が通らないと「どうせ誰も聞いてくれないんだ」とネガティブに深く考え、遊ぶのが怖くなる。
休み時間に友達と何で遊ぶかでもめたときに自分は鬼ごっこをやりたいと考えました。
けれど、他の子がドッチボールをやりたいとなり、多数決でドッチボールをやることに決まりました。
その時に「残念だけど、ドッチボールでもいいや」と気持ちを切り替えることができればいいですが、
「どうせ、自分の意見なんか誰も聞いてくれないんだ」と考えてしまうことがあります。
さらに、ドッチボールで自分が最初にボールを当てられたり「自分ばかり狙われている」と考えたり、
他の人ばかり狙われて自分にボールが来ないと「自分のことをみんな避けているんだ」などと悪い方に考えてしまい、友達と遊ぶのが怖くなってしまいました。
3. 完璧主義と過度な自己批判
物事を深く処理するHSCの特性は、完璧主義につながりやすい側面があります。
- 失敗への恐れ:「小さな失敗を引きずってしまう」「完璧にできないならやりたくない」と考えてしまう。
- 比較による自信喪失:友達の成績や作品と比較し、「自分はダメだ」と厳しく自己批判し、学校へのプレッシャーを増幅させる。
テストの成績や通知表などを友達と見せ合って、自分より成績がいい子に嫉妬してしまったり、いい点数を取れない自分を恥ずかしく感じてしまいます。
他にも、廊下に張り出されている書初めや絵などが他の子よりも下手だと思い込んでしまって自信を無くしてしまうことがあります。
4. 環境変化への適応困難
HSCの子どもは、環境の変化に敏感で、適応に時間がかかります。
- 具体的な変化の例:進級、クラス替え、担任の交代、席替え、長期休暇明けなど、人間関係や環境が大きく変わる時期。
- 不安の増幅:担任の先生が怖い先生に変わったことで怒られないかと常にドキドキしたり、仲の良かった友達とクラスが離れたことで強いさみしさや不安を感じる。
これらのストレスや疲労が限界に達した結果、心身を守るために不登校という形で現れるのです。HSCの不登校は「怠け」ではなく、「過剰な刺激から回復するための休息」と理解することが大切です。
担任の先生が優しい先生から、怖そうな先生に変わって、怒られないかとドキドキする子がいます。
また、前のクラスで仲の良かった友達のうち、他の友達同士は同じクラスなのに、自分だけが1人別のクラスになったことでさみしく感じる子もいます。
その結果、学校が楽しくなくなり、学校が怖くなって登校できなくなる場合があります。
HSCの子どもが不登校を乗り越えるための3つの柱と学校連携
不登校からの再スタートを支えるためには、家庭でのサポートに加え、学校への適切な配慮依頼と、子どもの強みを育てる視点が重要です。
1. 学校への具体的な配慮依頼の方法
HSCの子どもには、学校での環境調整(合理的配慮)が非常に有効です。
依頼すべき具体的な配慮リスト(学校向け)
| 項目 | 依頼内容の例 |
| 座席配置 | 教室の後方または端(刺激が少ない)、窓際を避ける(光の刺激)、落ち着いた子の隣。 |
| 授業での配慮 | 発表や挙手を強制しない、間違えても否定的に指摘しない、テストの別室受験を認める。 |
| 休み時間 | 図書室や保健室、空き教室など静かな場所で過ごす許可、無理に集団で遊ばなくて良いことを認める。 |
| 給食 | 別室での食事、量の調整、食べられないものの強制なし。 |
| 登校方法 | 保健室登校や別室登校など、段階的な復帰を認める。イヤーマフやサングラスの使用許可。 |

HSCは病気や障害ではないので、どこまで対応してもらえるかは、学校によって大きく差があります。
まずはスクールカウンセラーに相談をしてみましょう。
2. HSCの強みを活かし、自己肯定感を高める
HSCの持つ繊細さは、環境が整えば必ず才能になります。
HSCが持つ主な強み
- 創造性・豊かな感性:芸術的な才能、美しいものへの深い感動。
- 高い洞察力:物事の本質や人の変化に気づく力。
- 良心・誠実さ:責任感が強く、正義感が強い。
- 慎重な判断力:深く考えるため、ミスが少ない。
強みを伸ばす環境の選択
競争や集団が苦手なHSCの子どもには、少人数制の環境や個別指導が合います。
- 学びの場:オンライン教材、オンライン家庭教師、少人数制の私立校、オルタナティブスクール、フリースクール。
- 活動:読書、執筆、絵画、音楽(演奏、作曲)、プログラミング、自然観察など、一人で深く集中できる活動を積極的に勧める。
3. HSC/HSPの相談は「ぜんとカウンセリング」へ
お子さんが繊細さゆえにカウンセリングに抵抗がある場合でも、まずは保護者の方だけが専門家にご相談ください。
- ブリーフセラピーや認知行動療法など、家族のカウンセリングだけでも改善が期待できます。
- お子さんをどのようにカウンセリングに誘えばよいか、公認心理師が具体的な方法を一緒に考えます。
- 保護者の方の不安やストレスを解消し、精神的な安定を取り戻すことが、結果的にお子さんの回復を促します。
ぜんとカウンセリングでは、HSC/HSPの特性を理解した公認心理師が、あなたとお子さんに寄り添い、家庭内での具体的な関わり方や、学校・進路への最善のアドバイスを提供します。
QHSCは治るものですか?
HSCは病気ではなく、生まれつきの気質なので「治る」ものではありません。
ただし、環境調整や家族などの協力により、繊細過ぎることで起こる問題を減らすことができます。
QHSCと発達障害の両方を持つことはありますか?
はい、あります。HSCと発達障害(自閉スペクトラム症、ADHDなど)を併せ持つ子どももいます。判断が難しい場合は、専門医に相談しましょう。
Q学校が配慮に応じてくれません。どうすればいいですか?
伝え方や誰を窓口にするかなどの工夫が必要です。また、急にすべてを思い通りに配慮できるわけではありません。学校に「要求する」というより「協力をお願いする」というスタンスだとうまくいくことが多いです。
具体的な方法が思いつかない場合は初回無料相談で一緒に考えましょう!
QHSCの子どもは将来社会でやっていけますか?
はい、多くのHSCの大人が社会で活躍しています。子ども時代は学校という環境が合わないことが多いですが、大人になると自分で環境を選べるようになり、強みを活かせる仕事を見つけられます。
Q兄弟姉妹で一人だけHSCです。育て方を変えるべきですか?
はい、一人ひとりに合った対応が必要です。HSCの子どもには繊細さに配慮した関わりを、他のきょうだいにはその子に合った関わりをしましょう。「平等」ではなく「公平」(それぞれに必要なものを与える)が大切です。
まとめ
HSC(ひといちばい敏感な子)は、病気や障害ではなく、全人口の5人に1人が持つ生まれつきの気質です。学校での過剰な刺激や気疲れが不登校の主な原因となります。
| サポートのポイント | 具体的な行動リスト |
| 家庭でのサポート | 繊細さを否定せず肯定する、安全基地としての静かな環境を整える、感覚過敏に配慮する、ダウンタイムを尊重する。 |
| 学校との連携 | 座席配置や休み時間の過ごし方など、感覚過敏への具体的な配慮を書面と口頭で依頼する。 |
| 将来への視点 | 繊細さを才能として捉え、芸術や研究など、その強みを活かせる学びの場や活動を選ぶ。 |
お子さんの繊細さを否定せず、その個性を大切にしながら、一緒に最適な環境を見つけていきましょう。
引用参考文献
ひといちばい敏感な子 青春出版社(2021)エレイン・N・アーロン (著), 明橋 大二 (翻訳)
更新情報
24/02/11 新規記事掲載
25/07/26 リンクの修正、加筆修正
25/11/20 全面リライト、構成の再編成


