採用した新人が、配属からそう経たないうちに辞めてしまう。
研修で何かできることはないのか。
経営層からは、研修に予算をかけて離職は減るのかと問われる。こうした場面で、新入社員研修を離職対策として語ろうとすると、説明が難しくなります。
早期離職には、研修だけでは変えられない要因が多くあります。
一方で、入社初期の人間関係や相談しづらさ、職場への慣れには、研修が関われる余地があります。
新入社員研修は、「離職を防ぐ万能策ではなく、入社初期フォローとして設計する」ものです。
この記事では、新入社員が職場に適応しやすいようにサポートする、新入社員研修の設計について紹介します。
執筆・編集責任:吉田克彦(合同会社ぜんと代表 公認心理師、精神保健福祉士)
- 自治体や企業でのメンタルヘルス分野の研修講師歴23年。受講者のべ2万人以上。
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新入社員研修だけで早期離職を防ぐことはできない
新入社員研修だけで早期離職を防ぐことはできません。離職の背景には、給与、労働時間、休日、評価制度、仕事内容、配属、職場環境など、研修では変えられない要因が並びます。これらは制度や職場の構造に関わるもので、研修当日の内容だけで変えられる範囲を超えています。
そのため、研修によって離職を防げると言い切る表現は、慎重に扱う必要があります。
研修にできるのは、入社初期の職場適応を支える役割であって、離職という結果を直接コントロールすることではありません。早期離職に関わる要因を、研修で扱える領域と扱えない領域に分けると、研修の位置づけが見えやすくなります。
| 早期離職に関わる要因 | 新入社員研修での扱い |
|---|---|
| 給与・労働時間・休日 | 研修だけでは変えられない |
| 評価制度・配属・職場環境 | 研修だけでは変えられない |
| 人間関係への戸惑い | コミュニケーションや相談導線で関われる余地がある |
| 相談しづらさ | 相談するタイミングや窓口を扱える |
| 疲労・ストレスへの気づき | セルフケアやメンタルヘルスの入口を扱える |
| 配属先との関わり方 | 聞き方、確認の仕方、メモの取り方を扱える |
新卒の3年以内離職率は高く、放置できない課題である
早期離職が企業にとってどの程度の規模の課題なのかは、公的データから把握できます。厚生労働省は、新規学卒就職者の離職状況を継続的に公表しています。
厚生労働省の調査によると、令和4年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は以下の通りです。
大卒では3割を超え、高卒では4割弱、短大等卒では4割を超える水準です。
| 校種 | 就職後3年以内の離職率 |
| 大学卒 | 33.8% |
| 短大等卒 | 44.5% |
| 高校卒 | 37.9% |
| 中学卒 | 54.1% |
離職率の背景には、業種、企業規模、労働条件、職場環境などが複雑に関わります。
「3年で3割辞めるから研修が必要だ」とか「新人研修をするのがもったいない」と考えるのは危険です。
離職理由を見ると、研修で扱える領域と扱えない領域が分かれる
課題の規模に続いて、辞めた理由の中身を見ると、研修で関われる部分とそうでない部分が分かれていることがわかります。
令和5年若年者雇用実態調査では、初めて勤務した会社をやめた理由として、労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったが28.5%、人間関係がよくなかったが26.4%、賃金の条件がよくなかったが21.8%、仕事が自分に合わないが21.7%となっています。
労働時間、休日、賃金は、研修だけでは解決できない条件面の問題です。仕事が自分に合わないという理由も、採用、配属、業務設計に関わるため、研修だけで解消できるものではありません。一方で、人間関係や相談しづらさには、研修で関われる余地があります。仕事への違和感についても、入社初期に自己理解や相談導線を扱っておくことで、一人で抱え込む前に相談へつなぐきっかけにはなりえます。
| 離職理由 | 研修での扱い |
|---|---|
| 労働時間・休日・休暇 | 研修だけでは解決できない |
| 賃金 | 研修では解決できない |
| 人間関係 | コミュニケーション、自己理解・他者理解、相談導線で関われる余地がある |
| 仕事が自分に合わない | 研修だけでは解決できないが、違和感を相談する導線は扱える |
| 体調・ストレス | セルフケアや相談先の確認を扱える |
新入社員研修では人間関係・相談ルート・セルフケアを重視しよう
早期離職の背景に人間関係があるからといって、研修で人間関係そのものを解決できるわけではありません。職場の関係は、相手や状況によって変わるもので、研修で完結する話ではありません。
研修でできるのは、入社初期に必要になる考え方や行動を扱うことです。具体的には、次のような内容が扱えます。
- 聞き方、確認の仕方といったコミュニケーションの基本
- 自分と他人の違いを踏まえる自己理解・他者理解
- 困ったときに相談するタイミングや窓口の確認といった相談導線
- 生活リズムや疲労、ストレスへの気づきといったセルフケア
- メンタルヘルスの基礎知識
これらは、新人本人が困ったときに一人で抱え込まないための備えになります。配属先にとっても、新人がどのような内容を学んでいるかを把握できると、最初の関わり方を考えやすくなります。メンタルヘルスを扱う場合も、不調を診断したり予防したりするものではなく、セルフケアと相談導線の入口として位置づけます。新入社員向けのセルフケアの基礎知識は、厚生労働省「こころの耳」で公開されています。
研修当日よりも配属後フォローが重要になる
新人が実際に困るのは、研修当日ではなく配属後であることが少なくありません。研修当日に内容を理解しても、現場の状況に当てはめると使いにくい場面が出てきます。配属後に相談できる導線がないと、研修で学んだことが現場に接続しにくくなります。
研修後にメールで質問できる、相談窓口がある、外部の専門職を使えるといった仕組みは、研修当日を補う役割を持ちます。厚生労働省が示すメンタルヘルスケアの考え方では、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアという4つのケアが整理されています。
研修後フォローや相談導線は、このうちセルフケアや事業場外資源の活用と接続して考えられます。
こうしたフォローがあれば離職や不調を防げる、というわけではありません。
フォローの役割は、困りごとを早く拾う、新人、管理職、研修担当者が、それぞれ一人で抱え込まないための選択肢を増やす、という点にあります。
研修後フォローの重要性についてはこちらの記事をごらんください。
社内説明では「離職を防ぐ」ではなく「早期離職リスクに備える」と言う
研修担当者は、経営層や配属先に研修の意義を説明する立場にあります。このとき、離職を防ぐ研修という言い方をすると、効果を保証しているように聞こえ、後で説明がつかなくなります。
早期離職リスクに備える、入社初期の職場適応を支える、相談導線をつくる、という表現のほうが、研修にできることの範囲と一致します。研修の目的を離職率の数字だけで語らず、配属後の行動や相談しやすさまで含めて説明すると、経営層にも配属先にも伝えやすくなります。
| 避けたい説明 | 推奨する説明 |
|---|---|
| 研修で離職を防ぎます | 早期離職リスクに備える研修です |
| 定着率を上げる研修です | 入社初期の職場適応を支える研修です |
| メンタル不調を防ぎます | セルフケアと相談導線の入口をつくります |
| 新人を変える研修です | 配属後に必要な聞き方・確認の仕方を扱います |
新入社員研修の目的を、新人・研修担当者・会社・配属先まで含めて整理する考え方は、親記事「新入社員研修とは、六方よしで設計する目的と内容」で扱っています。研修内容を配属後の行動に接続した事例は、別記事「新入社員研修の事例、配属先にも伝わる設計」で紹介しています。
当社の新入社員研修は早期離職リスクに備えて設計する
当社では、早期離職を防ぐと断定する研修ではなく、入社初期の職場適応を支える研修として設計しています。離職という結果を保証するのではなく、研修で関われる領域に焦点を当てるという考え方です。
設計の特徴は次のとおりです。
- 会社や参加者に合わせたオーダーメイド設計
- 医師監修のもとで研修を設計
- 公認心理師が企画設計から講師まで対応
- メンタルヘルス、コミュニケーション、自己理解・他者理解を統合して構成
- 研修後もメールでの質問など、アフターフォローに対応
- 研修担当者が社内に説明しやすいよう、目的整理も支援
これらは離職率の改善を約束するものではありません。研修で扱える領域を明確にし、配属後の職場適応や相談導線に接続するための設計上の考え方です。
まとめ
新入社員研修だけで早期離職を防ぐことはできません。離職には、給与、労働時間、休日、評価制度、配属、職場環境など、研修では変えられない要因が関わります。
一方で、入社初期の人間関係、相談しづらさ、職場への慣れ、セルフケア、周囲とのコミュニケーションには、研修が関われる余地があります。早期離職対策として新入社員研修を考えるなら、研修当日の内容だけでなく、配属後のフォローまで含めて設計する必要があります。
離職を防ぐと言い切るのではなく、早期離職リスクに備える、職場適応を支える、と表現することで、社内でも説明しやすい研修設計になります。
新入社員研修の内容整理から相談できます
新入社員研修を早期離職対策の一部として見直したい場合は、研修で扱えることと、研修だけでは扱えないことを分けるところから始められます。
自社の状況を整理する際は、次の観点をまとめておくと、必要な研修内容や相談の論点が見えやすくなります。
| 整理する項目 | 確認の観点 |
|---|---|
| 離職リスク | 早期離職が起きやすい時期、職種、配属先 |
| 研修で扱える領域 | 人間関係、相談導線、セルフケア、コミュニケーション |
| 研修だけでは扱えない領域 | 給与、労働時間、休日、評価制度、配属、仕事内容 |
| 配属後フォロー | 研修後の相談窓口、質問への対応、外部資源の有無 |
| 社内説明 | 研修の目的を経営層や配属先にどう伝えるか |
当社では、医師監修のもと、公認心理師が会社ごとの課題に合わせて、新入社員向けメンタルヘルス・コミュニケーション研修を設計しています。既成プログラムではなく、自社の状況に合わせた研修を検討したい場合は、早期離職リスク、配属後フォロー、相談導線の整理からご相談いただけます。
参考文献
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月24日公表)
- 厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査の概況」(2024年9月25日公表)
- 厚生労働省「こころの耳:新入社員の方のためのセルフケア基礎知識」
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
