「高校に入ってから、急に学校に行けなくなった」
「このままでは留年になってしまう」
「せっかく受験して入った学校なのに…」
高校生のお子さんが不登校になると、保護者の方は強い焦りを感じます。義務教育ではない高校では、出席日数や単位が足りなければ留年や退学につながる可能性があるからです。
しかし、焦って無理に登校させようとしても、状況は良くなりません。むしろ、お子さんとの関係が悪化したり、心の傷が深まったりすることがあります。
高校生の不登校には、高校生ならではの選択肢があります。今の学校に戻ることだけが正解ではありません。
この記事では、25年以上にわたり不登校の家族支援に携わってきた公認心理師が、高校生の不登校について、原因から具体的な対応、進路の選択肢まで徹底解説します。
この記事でお伝えしたいこと
お子さんの年齢別の詳細は以下の記事をご覧ください。
▶【小学校低学年の不登校】原因・対応・よくある疑問を専門家が徹底解説
▶【小学校高学年の不登校】原因・対応・進路準備を専門家が徹底解説
▶【中学生】学校に行きたくない!原因がわからない理由と解決策
▶【高校生】「学校に行きたくないけど、特に理由がない」要因と対応策を解説
高校生の不登校の現状
高校生の不登校生徒数の推移
高校生の不登校は、年々増加しています。
文部科学省の調査によると、高校生の不登校生徒数はこの10年で大きく増加しています。高校生全体の約2%、およそ50人に1人が不登校という状況です。
不登校の定義について、以下の記事でくわしく解説しています。
義務教育ではない高校の不登校が持つ意味
小学校・中学校と高校の大きな違いは、高校は義務教育ではないということです。
義務教育では、出席日数が少なくても進級・卒業ができます。しかし、高校では一定の出席日数と単位を取得しなければ、進級・卒業ができません。
これは保護者にとって大きなプレッシャーになります。「早く何とかしなければ」「このままでは留年してしまう」という焦りが生まれやすいのです。
しかし、この焦りがお子さんを追い詰めてしまうこともあります。まずは、高校生の不登校には複数の選択肢があることを知っておいてください。
中退・留年という現実
高校では、出席日数や単位が足りなければ、留年や中退につながります。
ただし、留年や中退は「人生の終わり」ではありません。通信制高校への転入、高卒認定試験の受験など、高校卒業資格を得る方法は他にもあります。
「今の学校を続けること」だけにこだわらず、お子さんに合った道を一緒に考えていきましょう。
高校生の不登校の原因
高校生の不登校は、一つの原因だけでなく、複数の要因が絡み合って起こることがほとんどです。ここでは、主な原因を解説します。
一番多い原因は「無気力・不安」
不登校の要因として最も多く挙げられるのが、「無気力」「不安」といった、本人にも明確に説明できない気持ちです。
「なぜ学校に行きたくないの?」と聞いても、「わからない」「なんとなく」としか答えられないのは、本人にも理由がわからないからです。これは怠けているのではなく、心がSOSを出している状態です。
無気力型の不登校については、以下の記事で詳しく解説しています。
▶ うちの子、怠けてるだけ?と思ったら読んで|”無気力型不登校”の本当の姿
理由がわからない不登校への対応については、以下の記事をご覧ください。
▶ 不登校「理由がわからない」のはなぜ?子どもの心理と対応策を徹底解説
高校進学時のミスマッチ
高校1年生で不登校になるケースでは、「入学した学校が合わなかった」という理由が少なくありません。
志望校と入学校のギャップ
第一志望の高校に合格できず、第二志望・第三志望の学校に入学した場合、「本当はここに来たくなかった」という気持ちを抱えることがあります。
入学式の時点ですでにモチベーションが低く、些細なきっかけで学校に行けなくなってしまうことがあります。
校風・雰囲気が合わない
「思っていた雰囲気と違った」「周りの生徒と合わない」ということもあります。
中学校までは地元の友達と過ごしていたのに、高校では知らない人ばかり。その中で自分の居場所を見つけられず、孤立感を深めてしまうことがあります。
想像していた高校生活との違い
「高校生になったら楽しい生活が待っている」と期待していたのに、現実は違った。
勉強は大変、人間関係も難しい、部活も厳しい——。
理想と現実のギャップに苦しむ高校生は少なくありません。
学業面の要因
学習内容の高度化・進度の速さ
高校の学習内容は、中学校よりも格段に難しくなります。
特に進学校では、授業の進度が速く、ついていくのが大変です。
中学校ではトップクラスだった生徒が、高校に入って成績が振るわなくなり、自信を失うケースも珍しくありません。
赤点・留年へのプレッシャー
高校では、定期テストで一定の点数を取れないと「赤点」となり、追試や補習を受けなければなりません。赤点が続くと留年の可能性も出てきます。
「赤点を取ったらどうしよう」「留年したらどうしよう」というプレッシャーが、学校に行くこと自体を怖くさせてしまうことがあります。
大学受験へのストレス
高校2年生・3年生になると、大学受験が現実的な問題として迫ってきます。
「どの大学に行くか」「将来何になるか」という問題に向き合うことへの不安、模試の成績が思うように伸びないストレス、周囲との比較による焦り——。
受験に関するストレスが不登校のきっかけになることがあります。
人間関係の要因
友人関係のトラブル・孤立
高校では、クラス替えや新しい環境の中で、友人関係をゼロから作り直す必要があります。
「友達ができない」「グループに入れない」「教室に居場所がない」という孤立感は、学校に行く意欲を大きく削いでしまいます。
いじめ・SNSトラブル
いじめは、高校生の不登校の大きな原因の一つです。高校生のいじめは、直接的な暴力よりも、「無視」「陰口」「SNSでの悪口」など、見えにくい形で行われることが多くなります。
SNSでのトラブルは24時間続くため、学校にいる時間だけでなく、家にいても心が休まらない状態になります。
いじめと不登校の関係については、以下の記事で解説しています。
▶ いじめが原因での不登校 学校に行くより大事なこと
SNSトラブルについては、以下の記事をご覧ください。
▶ 友達とのSNSトラブル:原因、影響、そして解決策
教師との関係
担任や教科担当の先生との相性が合わない、厳しく叱られた経験がトラウマになっている、といったケースもあります。
担任との関係については、以下の記事で解説しています。
部活動・課外活動の要因
部活動での挫折・人間関係
高校の部活動は、中学校以上に本格的になります。練習もハードになり、先輩後輩の上下関係も厳しくなります。
「レギュラーになれなかった」「先輩との関係がうまくいかない」「部活内でいじめられた」など、部活動でのトラブルが不登校のきっかけになることがあります。
特に、部活動を目的にその高校を選んだ場合、部活を続けられなくなると学校に通う意味を見失いやすくなります。
燃え尽き症候群
中学時代に部活動や勉強に全力で取り組んできた生徒が、高校に入って「燃え尽きて」しまうことがあります。
高校受験という大きな目標を達成した後、次の目標を見つけられず、無気力になってしまうケースです。
心身の要因
起立性調節障害
朝起きられない、立ちくらみがする、頭痛や倦怠感が続く——こうした症状がある場合、起立性調節障害(OD)の可能性があります。
起立性調節障害は自律神経の機能不全によって起こる病気で、思春期に多く見られます。本人は学校に行きたい気持ちがあっても、体が言うことを聞かない状態です。
起立性調節障害については、以下の記事で詳しく解説しています。
うつ病・適応障害などの精神疾患
高校生になると、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症するリスクが高まります。
「何をしても楽しくない」「眠れない」「食欲がない」「死にたいと思う」といった症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
うつ病と不登校の関係については、以下の記事で解説しています。
発達特性の顕在化
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達特性は、高校生になって初めて困難さが明らかになることがあります。
中学校までは何とか周囲に合わせて過ごせていた子どもも、高校で学習内容や人間関係が複雑になると、困難さが顕著になることがあります。
発達特性と不登校の関係については、以下の記事で解説しています。
▶【スクールカウンセラーが解説】ADHD(注意欠陥多動症)と不登校の関係
▶【不登校と発達障害】ASD(自閉スペクトラム症)について特徴や改善法などを徹底解説
家庭環境の要因
家庭内の問題・変化
両親の離婚や再婚、家族の病気や介護、きょうだいの問題など、家庭環境の変化は子どもに大きな影響を与えます。
また、親子関係の悪化、家庭内の緊張感、過度な期待やプレッシャーなども、不登校の背景にあることがあります。
家庭環境と不登校の関係については、以下の記事で解説しています。
経済的な問題
家庭の経済状況が厳しく、アルバイトをしなければならない、部活動や塾に通えない、といった状況が、学校生活に影響を与えることがあります。
また、「大学に行くお金がない」という将来への不安が、学校に行く意欲を失わせることもあります。
将来への不安・アイデンティティの揺らぎ
高校生は、「自分は何者なのか」「将来何をしたいのか」という問いに向き合う時期です。
「やりたいことがわからない」「将来が見えない」という漠然とした不安が、学校に行くことの意味を見失わせることがあります。
特に、周囲が進路を決めていく中で、自分だけが決められないという焦りは、大きなストレスになります。
不登校になったときに保護者がまずやるべきこと
お子さんが「学校に行きたくない」と言い始めたとき、保護者の方は「すぐに何とかしなければ」と焦ります。しかし、焦りは状況を悪化させることがあります。
子どもの安心・安全を最優先にする
不登校の初期に最も大切なのは、子どもが「安心・安全」だと感じられる環境を作ることです。
学校に行けないことで、子どもは「自分はダメだ」「親に申し訳ない」と自分を責めています。まずは、その苦しさを受け止め、「あなたは大切な存在だ」と伝えてください。
高校生への接し方は中学生までとは違う
高校生は、子どもと大人の境目にいます。中学生までと同じ接し方では、うまくいかないことがあります。
高校生は自分なりの考えを持っています。頭ごなしに「学校に行きなさい」と言っても、反発するか、表面上は従っても心の中では離れていきます。
「一人の人間として尊重する」という姿勢が大切です。
本人の話を「聴く」姿勢を持つ
高校生のお子さんには、「聴く」姿勢が特に重要です。
「なぜ行かないの」「どうするつもりなの」と問い詰めるのではなく、本人が話したいときに話せる雰囲気を作りましょう。
すぐに解決策を提示しようとせず、まずは本人の気持ちを受け止めることが大切です。
原因を無理に聞き出そうとしない
「何があったの?」「誰かに何かされたの?」と繰り返し聞くことは避けましょう。
子ども自身も理由がわからないことが多いですし、理由があっても言葉にできないことがあります。問い詰められると、子どもは追い詰められた気持ちになり、かえって心を閉ざしてしまいます。
留年・退学を脅し文句にしない
「このままだと留年するよ」「退学になってもいいの」という言葉は、子どもを追い詰めます。
本人も留年や退学のリスクは十分わかっています。わかっているのに行けないから苦しんでいるのです。脅すのではなく、一緒に解決策を考える姿勢を見せましょう。
保護者がやってはいけないNG対応
良かれと思ってした対応が、逆効果になることがあります。避けたい対応を知っておきましょう。
無理に登校させようとする
「とりあえず行ってみよう」「行けば何とかなる」と無理に登校させることは、子どもをさらに追い詰めます。
一時的に登校できても、根本的な問題が解決しなければ、再び行けなくなることがほとんどです。無理な登校刺激は、子どもの心に深い傷を残すことがあります。
「高校くらい出ておかないと」と追い詰める
「高校も出ていないとまともな仕事に就けない」「将来どうするの」という言葉は、子どもにとって大きなプレッシャーになります。
確かに、高校卒業資格は社会で重要です。しかし、今の学校を卒業することだけが、高卒資格を得る方法ではありません。通信制高校や高卒認定試験という選択肢もあることを、保護者自身がまず知っておきましょう。
進路や将来の話を急かす
「で、これからどうするの」「いつまで休んでいるつもり」と、進路や将来の話を急かすのは避けましょう。
本人も将来のことは気になっています。しかし、心が疲弊している状態では、将来のことを考える余裕がありません。まずは心の回復を優先し、将来の話は本人が落ち着いてからにしましょう。
「もう大人なんだから」と突き放す
「高校生なんだから自分で考えなさい」「もう子どもじゃないんだから」と突き放すのも逆効果です。
確かに高校生は子どもではありません。しかし、まだ完全な大人でもありません。困ったときに頼れる存在がいるという安心感が、自立への土台になります。
ゲームやスマホを無理やり取り上げる
「学校に行かないならゲームは禁止」「スマホを取り上げる」という対応は、逆効果になることが多いです。
子どもがゲームや動画に没頭しているのは、それをしていないと「嫌なことを思い出す」「不安でたまらない」という状態だからかもしれません。無理やり取り上げると、親子関係が悪化したり、部屋にこもってしまったりする危険があります。
ゲームとの付き合い方については、以下の記事で解説しています。
学校との連携の進め方
不登校が続く場合、学校との連携は欠かせません。特に高校では、出席日数や単位の問題があるため、早めに情報を把握しておくことが大切です。
担任・学年主任への連絡と情報共有
まずは担任の先生に現状を伝え、情報を共有しましょう。
毎朝の欠席連絡が負担になる場合は、「しばらく休みます。状況が変わったらこちらから連絡します」と伝えて、毎日の連絡を省略させてもらうこともできます。
欠席連絡の負担軽減については、以下の記事で解説しています。
スクールカウンセラーの活用
多くの高校にはスクールカウンセラー(SC)が配置されています。不登校の相談に対応できる専門家です。
子ども本人が相談することもできますし、保護者だけで相談することも可能です。担任には話しにくいことも、スクールカウンセラーになら話せることがあります。
スクールカウンセラーの活用法については、以下の記事で詳しく解説しています。
出席日数・単位の確認
高校では、進級・卒業に必要な出席日数と単位が決まっています。
「あと何日休むと進級できなくなるのか」「どの科目の単位が危ないのか」を早めに確認しておきましょう。担任や学年主任に確認すれば、具体的な数字を教えてもらえます。
留年回避の相談
出席日数や単位が足りなくなりそうな場合、学校によっては救済措置があることがあります。
補習、レポート提出、追試など、留年を回避するための方法がないか、早めに相談しておきましょう。ただし、これらの措置を受けることが本人にとって過度な負担になる場合は、無理をさせないことも大切です。
学校復帰を焦らない姿勢の共有
学校側と「今は無理に登校を促さない」という方針を共有しておくことが大切です。
先生によっては「早く戻れるように」と働きかけがありますが、子どもの負担になることもあります。「今は休養が必要な時期です」と伝え、理解を求めましょう。
専門家への相談先と選び方
不登校の対応は、保護者だけで抱え込む必要はありません。専門家の力を借りましょう。
学校内の相談先(担任・SC・SSW)
まずは学校内の相談先を活用しましょう。
担任の先生、スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)は、学校の状況を把握しているため、具体的な対応を一緒に考えてくれます。
公的な相談機関
教育委員会の相談窓口、精神保健福祉センター、若者サポートステーションなども相談先として活用できます。
高校生の場合、将来の就労を見据えた支援を行う「若者サポートステーション」も選択肢の一つです。
相談先の選び方については、以下の記事で詳しく解説しています。
医療機関を受診する目安
以下のような場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
- 朝起きられない、頭痛や腹痛など体の症状が続いている
- 「死にたい」「消えてしまいたい」といった言葉がある
- 食欲がない、眠れないなどの状態が2週間以上続く
- 日常生活に大きな支障が出ている
体の症状がある場合は、まずかかりつけの内科を受診し、必要に応じて専門医を紹介してもらいましょう。
医療機関の受診については、以下の記事で詳しく解説しています。
民間の支援機関・カウンセリング
民間のカウンセリングルームや不登校支援団体も選択肢の一つです。
公的な機関は予約が取りにくいことがありますが、民間の機関は比較的柔軟に対応してもらえることが多いです。
今の高校を続けるか、環境を変えるか
高校生の不登校では、「今の学校に戻るか、環境を変えるか」という選択を迫られることがあります。どちらが正解ということはありません。本人の状況や希望に合わせて考えましょう。
今の高校に戻ることを目指す場合
本人が「今の学校に戻りたい」という気持ちを持っている場合は、段階的な復帰を目指すことができます。
別室登校・保健室登校
教室に入ることが難しい場合、保健室や別室で過ごすことから始める方法があります。
別室登校が出席扱いになるかどうか、単位として認められるかどうかは、学校によって異なります。担任や学年主任に確認しておきましょう。
時間差登校・短時間登校
朝からの登校が難しい場合、遅い時間から登校したり、特定の授業だけ出席したりする方法もあります。
本人の負担にならない範囲で、少しずつ登校時間を延ばしていくことができます。
転校・編入を検討する場合
今の学校が合わない場合、環境を変えることで状況が好転することがあります。
全日制高校への転校
全日制高校への転校は、受け入れ先の学校が見つかれば可能です。ただし、公立高校への転校は欠員がある場合に限られるため、難しいことが多いです。
私立高校の中には、不登校経験者を受け入れている学校もあります。転校を検討する場合は、早めに情報収集を始めましょう。
通信制高校への転入・編入
通信制高校は、不登校を経験した生徒の受け入れ先として、多くの家庭に選ばれています。
自宅学習を中心に、レポート提出とスクーリング(登校日)で単位を取得します。登校日数が少なく、自分のペースで学習を進められるのが特徴です。
今の学校で取得した単位を引き継ぐこともできるため、卒業までの期間が大幅に延びることを避けられる場合もあります。
定時制高校への転入
定時制高校は、夕方から夜にかけて授業を行う高校です。
朝起きるのが苦手な子どもや、昼間は別の活動をしたい子どもに向いています。
退学を選ぶ場合
どうしても今の学校を続けることが難しい場合、退学という選択肢もあります。
高卒認定試験という選択肢
高校を退学しても、「高等学校卒業程度認定試験」(高卒認定試験)に合格すれば、高校卒業と同等の資格を得られます。
大学受験や就職の際に、高卒と同等に扱われます。自分のペースで勉強を進めたい人に向いています。
退学後の進路
高校を退学した後の選択肢は、以下のようなものがあります。
- 通信制高校に入学し直す
- 高卒認定試験を受験する
- 就職する
- アルバイトをしながら今後を考える
退学は「人生の終わり」ではありません。むしろ、合わない環境から離れることで、新しい道が開けることもあります。
本人の意思を尊重した選択を
転校するか、退学するか、今の学校に戻るか——。どの選択をするにしても、本人の意思を尊重することが大切です。
保護者の方が「この道がいい」と思っても、本人が納得していなければ、うまくいきません。本人と十分に話し合い、本人が「これならできそう」と思える選択をしましょう。
通信制高校という選択肢
不登校を経験した高校生にとって、通信制高校は有力な選択肢の一つです。詳しく解説します。
通信制高校の仕組み
通信制高校は、自宅での学習を中心に、レポート提出、スクーリング(登校日)、テストによって単位を取得する高校です。
毎日通学する必要がなく、自分のペースで学習を進められます。卒業に必要な単位数は全日制高校と同じで、卒業すれば全日制と同じ「高校卒業資格」が得られます。
通信制高校のメリット・デメリット
通信制高校には、以下のようなメリットがあります。
- 登校日数が少ない(年間数日〜週数日など、学校によって異なる)
- 自分のペースで学習できる
- 人間関係のストレスが少ない
- 不登校経験者を受け入れる体制が整っている学校が多い
- 今の学校で取得した単位を引き継げる
一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 自分で学習を進める必要があるため、自己管理が求められる
- 学校行事や部活動などの機会が少ない
- 全日制高校に比べて、学費が高い場合がある
サポート校とは
サポート校は、通信制高校に通う生徒の学習をサポートする教育機関です。
通信制高校の学習は自分で進める必要がありますが、一人では難しいと感じる生徒も多いです。サポート校に通うことで、学習指導や生活支援を受けながら、通信制高校の卒業を目指すことができます。
通信制高校の選び方
通信制高校を選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。
- スクーリングの頻度と場所
- 学習サポートの内容
- 進学・就職のサポート体制
- 学費
- 学校の雰囲気(見学や体験入学で確認)
学校によって特徴が大きく異なりますので、複数の学校を比較検討することをおすすめします。
通信制高校については、以下の記事で詳しく解説しています。
回復段階に応じた対応
不登校からの回復には、いくつかの段階があります。それぞれの段階に合った対応をすることで、子どもの回復をサポートできます。
初期(不登校直後):休息を優先する時期
不登校になった直後は、心身ともに疲弊している状態です。
この時期は、とにかく休息を優先しましょう。勉強や進路のことは後回しにして、子どもが安心して過ごせる環境を整えることが最優先です。
「何もしなくていい」「ゆっくり休んでいい」と伝え、プレッシャーをかけないようにしましょう。
中期(安定期):エネルギーを蓄える時期
十分に休息が取れると、子どもは少しずつ落ち着きを取り戻します。
この時期は、好きなことをして過ごす時間を大切にしましょう。ゲーム、動画、音楽、読書など、大人から見ると「遊んでばかり」に見えるかもしれません。しかし、これは心のエネルギーを蓄えている大切な時間です。
焦らず見守りましょう。
後期(回復期):少しずつ活動を広げる時期
エネルギーが蓄えられてくると、子どもは自分から「何かしたい」「外に出てみたい」と言い始めることがあります。
この時期は、子どもの「やりたい」を大切にしましょう。外出、アルバイト、習い事、通信制高校の見学など、本人の興味に合わせて少しずつ活動の幅を広げていきます。
ただし、無理は禁物です。一歩進んで二歩下がることもありますが、それも回復の過程です。
学習の遅れへの対応
「学校に行っていないと勉強が遅れてしまう」と心配になる保護者の方は多いでしょう。学習への対応について解説します。
学習より心の安定が先
不登校の初期や、心がまだ不安定な時期に勉強を促すことは逆効果です。
「勉強しなさい」「遅れを取り戻さないと」というプレッシャーは、子どもの心をさらに追い詰めます。まずは心の安定を最優先にし、子どもが「勉強してみようかな」と自分から思えるようになるまで待ちましょう。
単位取得を意識した学習計画
今の高校に戻ることを目指す場合は、単位取得に必要な課題やテストを把握しておくことが大切です。
担任に確認して、「最低限これだけやれば単位が取れる」というラインを把握しておきましょう。すべてを完璧にやろうとせず、優先順位をつけて取り組むことが大切です。
オンライン教材・家庭教師の活用
自宅で学習を進める方法として、オンライン教材やオンライン家庭教師があります。
自分のペースで学習を進められるメリットがあり、対面が苦手な子どもでも取り組みやすいです。
オンライン学習については、以下の記事で詳しく解説しています。
▶【事例あり】現役スクールカウンセラーが不登校の子どもにはオンライン教材が最適と考える11の理由
▶【2025年最新】不登校向けオンライン家庭教師おすすめ10選【心理師が厳選】
高校卒業後の進路を見据えた準備
高校生の不登校で気になるのが、卒業後の進路でしょう。焦る必要はありませんが、選択肢を知っておくことは大切です。
進路の選択肢を知る
高校卒業後の進路は、大学・短大だけではありません。
大学・短大
不登校を経験しても、大学・短大に進学することは十分に可能です。
通信制高校から大学に進学する人も増えています。AO入試や推薦入試など、学力試験だけでない入試方式を活用する方法もあります。
専門学校
興味のある分野がある場合、専門学校に進学するという選択肢もあります。
美容、調理、IT、医療、福祉など、専門的なスキルを身につけることができます。
就職
高校卒業後、すぐに就職するという選択肢もあります。
若者サポートステーションなどの支援機関を活用すれば、就職活動のサポートを受けることができます。
その他の選択肢
留学、ギャップイヤー(進学・就職前に一定期間を置くこと)、ボランティア活動など、従来の進路にとらわれない選択肢もあります。
「すぐに進路を決めなければならない」と焦る必要はありません。本人が自分の道を見つけられるまで、時間をかけることも大切です。
不登校経験があっても進学できる
不登校を経験したからといって、進学の道が閉ざされるわけではありません。
AO入試や推薦入試では、学力試験だけでなく、本人の意欲や経験が評価されます。不登校の経験を乗り越えたこと自体が、強みになることもあります。
本人の意思を尊重した進路選択
進路を決める際は、本人の意思を最優先にしましょう。
「大学に行ってほしい」「安定した仕事に就いてほしい」という保護者の願いは自然なものです。しかし、本人が納得していない進路を強制しても、うまくいきません。
本人が「これをやりたい」「ここに行きたい」と思える進路を、一緒に探していきましょう。
高校生の自己肯定感を育てる関わり方
不登校の子どもの多くは、自己肯定感が低くなっています。日々の関わり方で、自己肯定感を育てましょう。
結果より過程を認める
テストの点数や成績ではなく、「努力したこと」「取り組んだこと」を認める声かけを心がけましょう。
「結果がどうあれ、挑戦したことが大事だよ」と伝えることで、子どもは「自分は認められている」と感じることができます。
小さな成功体験を積み重ねる
大きな目標ではなく、小さな目標を設定し、達成感を味わう機会を作りましょう。
料理をする、買い物に行く、部屋を片付けるなど、日常の中でできることを少しずつ増やしていきます。「できた」という経験が、自信につながります。
本人の興味・関心を尊重する
ゲーム、音楽、イラスト、プログラミング、スポーツなど、子どもが興味を持っていることを尊重しましょう。
「勉強以外のことばかり」と思うかもしれませんが、好きなことに打ち込む経験は、子どもの自己肯定感を高めます。将来、それが仕事につながることもあります。
自己肯定感を高める方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
「待つ」ことの大切さ
高校生の回復には、時間がかかることがあります。
「早く何とかしなければ」と焦る気持ちはわかります。しかし、焦りは子どもに伝わり、かえって回復を遅らせることがあります。
「待つ」ことは、放置することではありません。子どもを信じて見守りながら、必要なときにサポートできる態勢を整えておくことです。
保護者自身の心のケア
子どもが不登校になると、保護者の方も大きなストレスを抱えます。子どもを支えるためにも、保護者自身の心のケアが大切です。
自分を責めすぎない
「私の育て方が悪かったのでは」「もっと早く気づいていれば」と自分を責める保護者の方は少なくありません。
しかし、不登校は保護者のせいではありません。自分を責め続けることは、心身の健康を損なうだけでなく、子どもにもその不安が伝わってしまいます。
相談できる人・場所を持つ
一人で抱え込まず、話を聞いてくれる人を持ちましょう。
配偶者、家族、友人、職場の同僚など、信頼できる人に気持ちを話すだけでも、心が軽くなります。身近に相談できる人がいない場合は、専門家やカウンセラーに相談することも選択肢です。
保護者同士のつながり
同じ経験をしている保護者同士のつながりは、大きな支えになります。
「親の会」や「保護者の集まり」など、不登校の子どもを持つ保護者が集まる場に参加してみるのもよいでしょう。「自分だけじゃない」と感じられることで、気持ちが楽になります。
保護者の孤独感については、以下の記事で詳しく解説しています。
よくある質問
Qこのまま留年・退学になってしまうのでしょうか?
留年や退学の可能性がゼロとは言えません。しかし、留年や退学は「人生の終わり」ではありません。
通信制高校への転入、高卒認定試験の受験など、高校卒業資格を得る方法は他にもあります。今の学校を続けることだけにこだわらず、本人に合った道を一緒に探しましょう。
まずは、学校に「あと何日休むと留年になるのか」「救済措置はあるのか」を確認しておくことをおすすめします。
Q本人が何も話してくれません。どうすればいいですか?
高校生は、親に自分のことを話さなくなる時期です。これは、思春期の自然な発達の一部でもあります。
無理に聞き出そうとせず、「話したくなったらいつでも聞くよ」という姿勢を見せましょう。日常の何気ない会話を続けること、本人が話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
どうしても心配な場合は、スクールカウンセラーや専門家に、保護者だけで相談することもできます。
Qアルバイトをしたいと言っています。させてもいいですか?
本人がアルバイトに興味を持っているなら、前向きに検討してよいと思います。
アルバイトを通じて、社会との接点を持つことができます。「自分でお金を稼ぐ」という経験は、自己肯定感を高めることにもつながります。
ただし、アルバイトが負担になりすぎないよう、本人の体調や心の状態を見ながら進めましょう。
Q「学校を辞めたい」と言われました。どう対応すればいいですか?
まずは、本人の話をしっかり聴きましょう。「辞めたい」という言葉の背景にある気持ちを理解することが大切です。
「今の学校がつらい」のか、「勉強自体がつらい」のか、「学校という場所がつらい」のかによって、対応が変わってきます。
頭ごなしに「ダメだ」と否定せず、「辞めた後どうしたいか」「他の選択肢はないか」を一緒に考えましょう。通信制高校への転入や高卒認定試験など、高校卒業資格を得る方法は他にもあることを伝えてください。
まとめ:高校生の不登校は「人生の選択肢を広げる時間」
高校生の不登校は、保護者にとって大きな不安の種です。義務教育ではないため、留年や退学のリスクがあり、将来への影響を心配するのは当然のことです。
しかし、不登校は「人生の終わり」ではありません。むしろ、自分自身と向き合い、本当に自分に合った道を見つけるための時間になることもあります。
高校生には、小学生や中学生にはない選択肢があります。通信制高校への転入、高卒認定試験、就職、留学——。道は一つではありません。
保護者の方にできることは、焦らず、本人の話を聴き、本人の意思を尊重することです。そして、必要なときにサポートできる態勢を整えておくことです。
一人で抱え込まず、専門家や周囲の力を借りながら、お子さんの回復をサポートしていきましょう。
- 高校生の不登校は増加傾向。義務教育ではないため、留年・中退のリスクがある
- 「無気力・不安」が最多の原因。高校進学時のミスマッチも多い
- 初期対応は「安心・安全」を最優先に。無理に登校させない、脅さない
- 高校生への接し方は中学生までとは違う。本人の意思を尊重する
- 今の学校に戻るだけが正解ではない。転校、通信制高校、高卒認定など選択肢は広い
- 留年・退学は「人生の終わり」ではない
- 不登校経験があっても、大学進学・就職は十分に可能
- 保護者自身の心のケアも忘れずに
お子さんの年齢別の詳細は以下の記事をご覧ください。
▶【小学校低学年の不登校】原因・対応・よくある疑問を専門家が徹底解説
▶【小学校高学年の不登校】原因・対応・進路準備を専門家が徹底解説
▶【中学生】学校に行きたくない!原因がわからない理由と解決策
▶【高校生】「学校に行きたくないけど、特に理由がない」要因と対応策を解説















