学校には行けない。勉強も心配。昼夜逆転も気になる。友達とも会っていない。自分も疲れてきた。見守るべきか、働きかけるべきかも分からない。調べれば、どれも「大切です」と書いてあります。それで、かえって動けなくなる。
こういうとき役立つのは、新しい「やることリスト」ではなく、いったん問題を紙の上に並べて、今どこを当面扱うかを仮に置いてみることです。この記事では、頭の中で混ざっている問題を紙の上に分け、「今は何を減らし、何を残すか」を考えるための整理メモ(不登校ハームマップ)を使います。決めるのは正解ではなく、あとから変えられる仮の見取り図です。
この記事でお伝えしたいこと
この記事は私たちが執筆監修を行っています
執筆・編集責任:吉田克彦(合同会社ぜんと代表 公認心理師、精神保健福祉士)
・家族支援25年以上、3000家庭以上の支援実績
・スクールカウンセラー歴20年以上。小学校、中学校、高校(全日制、定時制、通信制)全ての校種で勤務経験あり。
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まず、今わが家で起きていることを3つの欄に書き出す
いちばん先に、手を動かします。下の3つの欄に、今頭の中にあることを思いつくまま書いてみてください。
きれいに分類しようとしなくて大丈夫です。
同じことが2つの欄に入っても、うまく書けない欄があっても構いません。
ハームとは、今起きている苦痛・負担・不利益のことです。
わが家の不登校ハームマップ
A 今、学校や環境から受けている苦痛・負担
(例:担任の話になると強く緊張する/朝になると腹痛/教室の音がつらい)
B 学校から離れて細くなった、または残したい成長機会
(例:勉強との接点が減った/友達一人とはオンラインで話す/外出が減った/「嫌」は言える)
C 今の対応そのものが増やしている負担
(例:毎朝「今日は行く?」で親子とも疲れる/夜中まで情報検索/夫婦で方針が割れる)
本人から分かっていること(本人に書かせる欄ではありません)
(普段の言葉・表情・行動から分かる範囲で。例:「これは無理」「これなら」「今は決めたくない」「この人となら」。分からなければ空欄のまま)
「学校へ行っていないこと」そのものは、Aの苦痛には数えていません。学校から距離を取ったことで、Aがむしろ減っている場合があるからです。不登校という行動が、今の本人を守っている面をもつこともあります。かといって、離れ続ければよいと決まるわけでもありません。学校から距離を取ってAの苦痛が減っている場合も、その状態で何が残り、何が得にくくなっているかというBや、家庭の対応によるCを、同時に見ます。

数を数える必要はありません。「Aが3個だから重症」といった読み方はしないでください。
この表は採点用ではなく、混ざっていたものをいったん外に出すためのメモです。
3つの欄は、性質が違う3種類の困りごと
書き出せたところで、3つの欄がそれぞれ何を指しているかを補っておきます。読んでから書き足したくなったら、上の欄に戻って足してかまいません。
| 欄 | 何を書く欄か | 補足 |
|---|---|---|
| A | 学校や環境から受けている苦痛。いじめ、担任への恐怖、人間関係、教室の刺激、学習のミスマッチ、朝の不安、身体症状など | 「行っていないこと」は数えない。ここが大きいなら、学校やその環境から距離を取ることが、苦痛を減らす意味を持つ場合がある |
| B | 学校から離れて細くなった成長機会。学ぶ/心身を育てる/人とつながる/社会と関わる/自分で選ぶ、の5つ | 「全部失われたか」ではなく「今どれが残り、どれが得にくいか」を見る。足りないものを全部増やす欄ではなく、今あるものまで一緒に切らないための欄。学校は5つをまとめて得やすい場の一つだが、唯一ではない |
| C | 今の対応が生んでいる負担。毎朝の交渉、説得、親子げんか、家族の意見対立、学校連絡、親の疲弊、きょうだいへのしわ寄せなど | 善意の対応でも負担になっている場合がある。役に立っている対応まで、やめる必要はない |
この3分類は頭の中で混ざっている困りごとを、性質ごとに置いてみるための整理です。
この「苦痛や不利益を減らしながら次の一歩を考える」という見方は、ハームリダクションと呼ばれる考え方に沿っています。
依存症対策などで重視されてきた考え方ですが、私たちは不登校のお子さんの支援にも役立つと考えています。
今すぐ問題そのものをゼロにできなくても、周囲で起きている負担を一つずつ減らしていく。
この視点は、とても大切です。



ハームリダクションの「負担を軽減する」という視点で考えると、
「無理に学校に行かせること」も、逆に「子供に好き勝手をさせること」も、どちらも支援としては間違っていることがわかります。
3つはつながっていて、順番には片づかない
書いた欄をながめると、AとCが連動していたり、AとBがぶつかっていたりするのに気づくことがあります。3つは独立しておらず、循環します。
循環の一例:学校が怖い(A)→ 朝の説得が増える(C)→ 親子げんかが増える(C)→ 学校の話題がいっそう怖くなる(A)
逆向きの一例:学校を休んで苦痛が減る(Aの軽減)→ 学び・人との接点も減る(B)→ 将来不安が増す → 親が強く働きかける(C)→ 家庭の緊張が上がる
循環するので、「AをゼロにしてからB」「Bを片づけてからC」という順番では進みません。一つの負担を調整することで、ほかの負担にも変化が生じることがあります。全部を一気に、ではなく、今の全体を見て、動かせそうな一点を探します。
優先順位は、3つの問いから考える
3つの欄が埋まったら、全部を解決しようとはしません。次の3つの問いを手がかりに、当面どこを扱うかを考えます。全部にきれいな答えを出す必要はありません。
| 問い | 見るもの |
|---|---|
| 問1 今いちばん減らしたい苦しさ・負担は? | 「一番重症な問題」ではなく、今の本人や家庭への影響が大きいもの(朝の恐怖、親子げんか、学校連絡の負担、睡眠不足、強い孤立感など) |
| 問2 細くても残したいものは? | Bの5つから。好きなことを調べる学び、一人の友人とのつながり、散歩、買い物、支援者との接点、「嫌」と言えること、進路情報を知る機会など。足りないものを増やすより、今あるものを切らない視点 |
| 問3 本人の反応から、今なら何が可能そう?何は避けたい? | 「嫌」「分からない」「今は決めたくない」「短時間なら」「オンラインなら」「一人なら」も材料。前向きなYESを必須にしない。拒否や迷いも情報 |
優先順位を、点数表では決めません。「もっとも悪い項目」だけで決めるのでもありません。今の苦痛への影響、本人や家族が変化を望んでいるか、小さく変えられる余地があるか、元に戻したり方法を変えたりしやすいか、一つを調整したときにほかの負担や守りたい成長機会にどんな影響がありそうか。この辺りを、採点せずに見比べます。たとえば学校連絡を減らせばCの負担は下がっても、安心して話せる先生との接点というBまで細くなることがあります。減る方向だけでなく、こうしたトレードオフも一緒に見ます。
一つだけ例外があります。安全や心身の状態に直結する問題があるときは、このワークの優先順位づけを待たず、必要な対応を先に考えてください。
決めた優先順位を「当面の仮説」として一文にする
見えてきた優先順位を、「目標」や「支援計画」と重くせず、一文にします。下の型に当てはめてみてください。
今は、____の負担を減らしながら、____との関わりを細く残す。
そのために、まず____を試してみる。
合わなければ、戻す・変える。
記入すると、たとえばこうなります。
「今は、毎朝の登校交渉を減らしながら、好きな分野を調べる学びとの接点は残す。そのために、朝の登校確認を毎日繰り返す方法を見直してみる。合わなければ変える」
これは書き方の一例で、別の家庭にそのまま当てはめるものではありません。
「今週の目標」という形にはしません。毎週の採点になったり、子どもの様子を監視してしまうからです。
本人に書かせなくてよい。親子で見え方が違ってもよい
このワークは、親が一人で書いて構いません。「親子で一緒に書きましょう」とは、一律にはお勧めしません。子どもには、話したくない、書きたくない、分からない時期があり、書くよう求めること自体がCの負担になることもあります。
本人がその場でワークに参加しなくても、上のマップの「本人から分かっていること」の欄は書けます。答えを取りにいくために質問攻めにする必要はありません。普段の言葉、表情、行動、拒否や保留から分かる範囲だけで十分です。「嫌」「分からない」「今は決めたくない」「短時間なら」「オンラインなら」「一人なら」「この人となら」といった反応も、本人の意思に関する情報として扱えます。分からない部分は「分からない」のまま残します。拒否や保留を必ず良い変化と決める必要はなく、何が嫌なのか分からないままのこともあります。
親と子で見えているものが違うのは、よくあることです。親は「勉強が止まっているのが一番心配」、本人は「勉強より学校からの連絡が嫌」。この違いは、どちらが正しいかで決めません。違いそのものが、次の一手を考える材料になります。
見立てが違うときは、片方を選ぶより、両方を含む一手を探せることがあります。この例なら、「学校関連の話題による負担を減らしながら、学校とは直接関係しない好きな学びとの接点なら残せるか」という置き方です。親の不安も、子どもの言い分も、片方だけで全部を決めない。基本にするのは、本人が全部決めるのではなく、本人抜きで決めない、という姿勢です。年齢や状態に応じて、大人が責任を持ちます。本人の意思の扱いは、「どうしたい?」に答えない子どもの意思をどう考えるかでも扱っています。
3つの架空例で、書き方をつかむ
書き方のイメージをつかむために、3つの例を挙げます。以下は使い方を示すための架空の例で、実在のケースではありません。
架空例A:学校そのものの負担が大きい
A:担任への恐怖が強い。学校から電話が来るだけで緊張する。
B:勉強は一部止まったが、好きな分野は自分で調べている。友人一人とは連絡がある。
C:毎朝「今日はどうする?」で親子とも消耗している。
本人から分かっていること:「学校の電話は嫌」「友達とは話したい」と言っている。
当面の仮説:学校関連の緊張と毎朝の交渉を減らしつつ、今ある学びと友人との接点は切らない。学校へ戻す・戻さないの結論は、ここでは出さない。
架空例B:休めているが、成長機会が細くなってきた
A:学校の話題への強い反応は、以前より少ない。
B:学習、人との接点、外出が少なくなっている。
C:親は刺激しないよう、何も提案できなくなっている。
本人から分かっていること:「学校はまだ嫌」「ゲームの友達とは話せる」「外は分からない」という反応がある。
当面の仮説:休める状態は守りながら、本人の反応を見て、興味のある活動や人との接点を一つ提案できる余地があるか考える。「元気になったから外へ出す」ではない。
架空例C:対応そのものの負担が大きい
A:学校の何がつらいかは、まだ分からない。
B:ゲーム仲間との交流や好きなことは残っている。
C:毎朝の説得、夫婦の意見対立、親の情報検索疲れが大きい。
本人から分かっていること:学校の話になると黙る。「分からない」と言うことがある。一方、ゲーム仲間とは自分から話す。
当面の仮説:原因を今すぐ確定するより、家庭内の説得と判断の負担を減らし、今ある人・興味との接点を守る。「原因不明だから何もしない」にはしない。
3例とも、同じ状況なら同じ対応になるとは限りません。ここで示したいのは書き方であって、「Aタイプならこの対応」という新しい分類ではありません。本人から分かっていることも、その言葉が本当の原因だとか、その希望に従えば正解だという意味ではなく、A・B・Cと合わせて当面の仮説を考えるための材料です。
合わなかったときは、失敗ではなく次の材料
試した一手を本人が嫌がっても、「失敗」「後退」「やる気がない」とは考えません。見るのは反応です。負荷が大きすぎたか、タイミングか、方法か、誘う人か、選ばない自由が少なかったか、学校に関することだけが嫌なのか、別の形なら可能か。この問いから、仮説を直す材料が出てきます。反対に、嫌がったことが必ず正しい方向だったと決めるわけでもありません。反応は、成否の判定ではなく、次の設計の情報です。この見直し方は、見守るだけでいい?休ませる・促すの判断軸と地続きです。



最初に決めた一手が合わないことは、現場でもよくあります。それは失敗ではなく、「子どもの反応から、条件を変える手がかりが一つ増えた」という情報が増えたことです。
整理できたら、いちばん動かしたいテーマだけ深く読む
全体が見えたら、次は手をつけたい一つだけ、詳しい記事へ進みます。全部を一度に読む必要はありません。
| 今のわが家で気になっていること | 読む記事 |
|---|---|
| 学校・環境からの苦痛(Aが大きい) | 学校がつらいときのサポート |
| 本人が何を考えているか分からない | 子どもの意思の尊重 |
| 学習との接点が細い | 勉強との向き合い方 |
| 睡眠・生活リズムが気になる | 昼夜逆転と生活リズム |
| 人との接点が細い | 友達・人とのつながり |
| 変化をどう読めばいいか迷う | 回復期・変化の見方 |
| 見守るか働きかけるか迷う | 見守り・働きかけの調整 |
| 親・家庭の負担が大きい(Cが大きい) | 親が疲れたときの負担の減らし方 |
| 将来のために何を育てるか | 30年後から考える5つの成長機会 |
各記事のリンクは公開済みのものから順につなぎます(一部は公開予定)。この記事は各テーマの要約ではなく、どこから深く読むかを選ぶ交差点です。
まとめ
不登校で「何をすればいい?」と迷うのは、性質の違う困りごとがいくつも重なっているからです。そういうときほど、全部を一度に直そうとしないほうが動けます。
やることは多くありません。
今起きていることを、
学校・環境からの苦痛(A)
学校から離れて細くなった成長機会(B)
今の対応が増やしている負担(C)
の3つに書き分ける。
今いちばん減らしたい苦痛と、細くても残したい成長機会を見比べ、本人の反応を材料に、当面の仮説を一文にする。
合わなければ、戻す・変える。
「苦痛を減らす」と「成長する」は二択ではありません。
「勉強も睡眠も友達も将来も、全部なんとかしなきゃ」から、「今はこれを少し減らして、これは切らずに残す」へ。書き出した一枚が、その一歩になります。
引用参考文献
- 文部科学省.令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果. 2025.
- 吉田克彦.「できる」ブリーフセラピー.金子書房, 2025.
- 小児心身医学会ガイドライン集改訂第3版 日常診療に活かす7つのガイドライン.小児心身医学会編集,2025.
- こども家庭庁. こども基本法 2023.
更新情報
2026/07/15 新規記事掲載
2026/01/05 全体的な記事の修正とデータの更新
2026/02/10 最新データに更新

