【不登校の回復期】「回復のサイン」をチェックしすぎない

最近、子どもがよく笑うようになった。友達とも遊べた。少しなら外にも出られた。「もしかして回復期に入ったのかな」と思う一方で、学校にはまだ行かない。

そんなとき、「これは回復のサインなのだろうか」「そろそろ登校を勧めてもよいのだろうか」と迷うことがあります。また休み始めたら「逆戻り」なのだろうか。よく寝ているのは回復なのか、それとも悪化なのか。

子どもの変化は大切な情報です。ただし、それを「回復したかどうか」を判定するチェックリストにはしません。変化は、今どこに負担が残っていて、何が少し動きやすくなったのかを知る手がかりとして見る。そして、良い変化が見えても、それをすぐに次の要求につなげない。この記事では、公認心理師・精神保健福祉士として25年以上、家族支援に携わってきた立場から、その具体的な見方を整理します。

この記事でお伝えしたいこと

吉田 克彦

吉田 克彦

公認心理師
不登校の家族支援25年超

「元気になった=学校に行く」ではありません。
「元気になると嫌なことをしなければならない」となると、体は元気になることを拒否します。「元気になればいいことが増える」と子どもが実感するのが重要です。
目次

不登校の「回復期」は、全員が同じ段階を通るわけではない

不登校の支援では、子どもの状態の変化を説明するために「混乱期」「安定期」「回復期」といった言葉が使われることがあります。状態が変わっていくことを大まかにつかむうえで、こうした言葉が役に立つ場面はあります。

ただ、実際の子どもの変化は一方向ではありません。
同じ順番で進むとも限らず、一度動き始めたあとに、また休むこともあります。
「今は何期なのか」を特定しようとすると、かえって目の前の子どもの姿が見えにくくなることがあります。

この記事では、「回復期」という言葉を、特定の段階に子どもを当てはめるためではなく、以前と比べて何が変わってきたかを考えるための便宜的な言葉として扱います。「うちの子は今、第何段階なのか」と考えるより、「以前と比べて、何が違ってきたか。何はまだしんどそうか」と考えるほうが、次の関わりを考えるうえで役に立ちます。

「回復サイン」は、判定ではなく変化を見る手がかり

不登校の回復期について調べると、次のような変化が「回復のサイン」として挙げられていることが多くあります。家族との会話が増える。外出が増える。学校や進路のことを口にする。暇そうにする。自分から勉強に手をつける。

これらの変化に注目すること自体は、間違いではありません。こうした行動は、状態の変化を考える手がかりになることがあります。

ただし、注意したいのは、「このうち何個そろったら回復期」という判定表として使わないことです。会話が増えても、学校の話をすることはまだ難しい場合がありますし、外出はできないけれど家の中では以前よりずっと落ち着いている子もいます。サインの数を数えても、その子に今どんな負担が残っているのかは分かりません。これらの変化は「合格ラインを超えたかどうか」を測るものではなく、以前と比べてどこが動きやすくなったかを知るための手がかりです。

登校日数では見えない、5つポイント

先週は1日登校できたのに、今週は0日だった。それだけを見ると「後退した」と感じるかもしれません。
ただ、その間に「今日は無理」と自分から言えた、学校への連絡方法を相談できた、友達との関係は続いていた、という変化があることもあります。登校日数は一つの情報ですが、子どもの変化のすべてではありません。

ここでは、登校日数だけでは見えない変化を捉えるための5つの「観察の窓」を紹介します。

観察の窓変化の例
苦痛・負担「嫌」「無理」と言えるようになった。負担のある相手や場所から距離を取れるようになった
興味・自発性好きなことへの関心が戻ってきた。自分から何かを選ぶ。自分から話題を出す
人とのつながり家族と話す。オンラインで交流する。安心できる大人と短時間なら関われる
学び・活動読む、調べる、少し勉強する。趣味に取り組む。外出する。家のことをする
自分で選ぶ・助けを求める「今日は無理」「これならできそう」「手伝って」「今は決めたくない」と伝える

この表は、そろった数を数えるための表ではありません。「この窓から見ると、以前と何が違うだろう」と考えるための整理です。

苦痛・負担の窓で見たいのは、「苦痛がゼロになったか」ではありません。嫌なことを嫌と言えるようになった、合わないことを断れるようになった、といった負担との付き合い方の変化です。

自分で選ぶ・助けを求める窓は、見落とされやすいですが重要です。「できることが増えた」だけでなく、「今日は無理」「今は決めたくない」と表現できるようになったことも、以前との違いを考える手がかりになります。前向きな発言だけを変化として数える必要はありません。ただし、拒否や保留そのものを一律に「成長の証拠」と判定するわけではありません。子どもの意思の受け止め方は、【不登校】「どうしたい?」に答えない子どもの意思をどう尊重するかで詳しく扱っています。人とのつながりの変化については、【不登校で友達がいない】人とのつながりをどう作る?も参考にしてください。

一つの変化を、次の要求の合図にしない

この記事でいちばんお伝えしたいのが、この点です。良い変化が見えたとき、親としては「じゃあ次はこれもできるのでは」と考えたくなります。しかし、ある領域で変化があったことと、別の領域の負荷に耐えられることは、同じではありません。

見えた変化すぐに結びつけないこと
会話が増えた学校の話をしてよい
友達と遊べた学校へ行ける
少し勉強した毎日勉強できる
外出できたフリースクールへ通える
朝起きられた登校できる

友達と遊ぶことと、教室で一日過ごすことでは、求められる負荷は同じではありません。少し勉強に手をつけたことと、毎日机に向かい続けることも別のことです。

変化が見えたら、すぐ課題を増やす前に、「前と何が違ったのか」「どんな条件ならその変化が起きたのか」を見ます。たとえば、同じ外出でも、本人が場所や時間を選べたからできたのかもしれません。変化そのものだけでなく、どんな条件ならできたのかを見ると、今の状態の理解につながります。

「元気なのに学校へ行かない」は矛盾ではない

家で笑っている。ゲームをしている。友達と遊べる。外出もできる。それなのに学校へは行かない。この姿を見て、「元気なら行けるのでは」と感じる方は少なくありません。

けれど、家庭や遊びや趣味で必要な負荷と、学校で必要な負荷は別物です。学校には、時間どおりに動き続けること、集団の中での緊張、評価される場面、合わない人間関係など、家庭にはない負担が残っていることがあります。家庭で笑ったり活動したりできることと、学校の負担に対応できることは、別に考えます。学校の何が負担になっているのかを考える視点は、【学校がつらい】子どもの負担を減らすために親ができることで扱っています。

「逆戻り」に見えたら、前回と今回の違いを見る

少し動けるようになったと思ったら、また休み始めた。外出が減った。会話が減った。こうしたとき、「逆戻りしてしまった」「全部元に戻ってしまった」と感じるのは自然なことです。

「逆戻り」という言葉は検索でもよく使われますが、この記事では、以前できていたことが一時的にできなくなった状態を指す便宜的な表現として扱います。すべてが以前の状態に戻ったと決めつける必要はありません。

昨日できたことが今日できない。それは事実です。ただ、そこで見てほしいのは、前回同じことが起きたときと、今回とで何が違うかです。前は誘われると強く拒絶して部屋にこもったが、今回は「今日は無理」と自分の言葉で言えた。前は何日も会話が途切れたが、今回は翌日には家族と話せた。登校は止まったが、自分から「疲れた」と言えた。外出は減ったが、オンラインでの友達とのやりとりは続いている。

同じ「行かなかった」「休んだ」に見えても、中身まで前と同じとは限りません。本人の言葉、助けの求め方、ほかに続いている活動やつながりなどに違いがあれば、「全部が前と同じ状態に戻った」とは限りません。

「逆戻り」を失敗と決めつける必要はありませんが、反対に「必ず成長の証」と決める必要もありません。良い・悪いと結論づける前に、前回との違いを見ます。

「昨日できたことが今日できなかった」とがっかりするのではなく、「今日は難しかったけれど、昨日はできた」ととらえることが気持ちも楽になりますし、「昨日できた要因」を探すきっかけにもなります。

「よく寝る」「勉強しない」だけで回復を判定しない

検索でよく見かける個別の疑問についても、短く触れておきます。

よく寝るのは回復期のサインなのか。「昼まで寝ている」「朝起きられない」という一つの行動だけで、回復期だ、逆戻りだ、と判定することはできません。見たいのは睡眠単体ではなく、本人の体調、日中の活動、本人自身が生活の中で困っているかどうか、といった全体です。睡眠や生活リズムについては【不登校の昼夜逆転】放っておく?生活リズムはどこから整える?で扱っています。

元気になってきたのに勉強しないのはなぜか。元気が戻ったように見えても、勉強への負荷は別に残っていることがあります。「回復期に入ったから勉強を始める時期」と決める必要はありません。学習との付き合い方は【不登校の勉強】勉強しないとき親はどうする?を参考にしてください。

どちらの場合も共通するのは、一つの行動だけで全体を判断しない、という原則です。

回復チェックが、子どものプレッシャーにならないために

ここまで「変化を見る」ことをお伝えしてきましたが、一つ大事な注意があります。回復のサインを知ると、毎日の様子を確かめたくなることがあります。今日は笑ったか。外に出たか。起きられたか。勉強したか。

けれど、この毎日の確認は、子どもにとって「良くなっているかどうか、ずっと見られている」という圧になることがあります。変化を見ることと、子どもを毎日の観察対象にすることは、違います。

そこで、3つの原則を提案します。

  1. 日単位で採点しない。昨日できた、今日はできない、という一日ごとの○×で評価せず、以前と比べてどうかを見る。
  2. 一つの行動だけで判定しない。よく寝る、外出した、勉強した、会話した、どれか一つだけで「回復した」「逆戻りした」と決めない。
  3. 良い変化を次の要求に直結させない。笑ったから学校の話、遊べたから登校、勉強したから毎日、外出できたからフリースクール、にしない。

この3つは、変化を見ることが毎日の採点や監視に変わらないための目安です。こうした「変化を見ながらも、それを理由に新しい負担を増やしすぎない」という考え方は、本サイトで不登校支援を考える補助的な視点としているハームリダクションとも重なります。一方で、「何も見ないこと」が目的でもありません。今ある変化と残っている負担を、次の判断に使える形で整理します。

4つの問いで、今の変化を見る

状態を整理したくなったときは、次の4つの問いで振り返ることができます。

  1. 前と比べて、何が少し違う? 「良くなったか」ではなく、差を見ます。5つの窓のどれかで、小さな違いはないでしょうか。
  2. 何は、まだ負担が大きい? できたことだけを見ず、まだしんどそうなことも同じ重みで見ます。
  3. 本人は、どう感じている? 親から見えている姿と、本人の感じ方が同じとは限りません。本人が話していることや反応から分かる範囲を見ます。分からない場合は、「分からない」のままで構いません。親の推測だけで「回復している」と決めないようにします。
  4. 次に動かすなら、何を増やすより、何を調整する? 「次は何をやらせるか」ではなく、環境ややり方の調整でできることがないかを見ます。

なお、将来の自立に必要なのは、いつも前進し続ける力だけではありません。疲れたと気づく、いったん止まる、距離を調整する、助けを求める、やり方を変える。こうしたことも、大人になってから必要になる力です。調子が落ちたときに「失敗した」と考えるのではなく、自分の状態に気づいて対処できることには、それ自体に意味があります。

まとめ

「回復期」は、全員が同じ順番で通る固定の段階ではありません。回復のサインとされる変化は、判定表ではなく、変化を見る手がかりです。登校日数は一つの情報ですが、子どもの変化のすべてではありません。苦痛との付き合い方、興味、人とのつながり、学び、自分で選ぶ力。複数の窓から、以前との違いを見てください。

そして、良い変化が見えても、すぐに次の要求を増やさない。逆戻りに見えても、すべて元に戻ったと決めつけず、前回との違いを見る。日々採点せず、本人の意思と、まだ残っている負担の両方を見る。

この記事の目的は、「回復のサインを見抜くこと」ではなく、変化を採点せずに、次の関わりを考える材料として見られるようになることです。次に何を勧めるべきか迷ったときは、登校日数や一つの行動だけで判断しようとせず、今も残る負担と本人の意思を丁寧に整理していくことが大切です。

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